2012年に読んだ本の感想


ブクログブクログに読んだ本の感想をアップしています。


2012年12月30日

伊坂幸太郎のSOSの猿を読みました。 西遊記をモチーフに、株取引の入力ミス事件、悪魔払いとエクソシスト、引きこもりとカウンセリング、と言った話題を絡ませた物語でした。
物語の前半は私の話と猿の話が交互に語られます。 私の話は、叔母さんからその息子が引きこもりになってしまったので、悪魔払いをやっている私に引きこもりを治療してくれないか、と相談を受ける話です。 猿の話は、ソフトウェア開発会社の品質管理担当者が株取引の入力ミス事件の原因の調査を依頼される話です。
両方とも孫悟空が見え隠れして物語が進んでいきます。 後半になって、その二つの物語が合わされて完結していきます。
読後感としては、夕刊に連載されていたということを割り引いても、後半の完結編の完成度が低く、すっきり完結しているとは言い難いのが残念でした。


2012年12月24日

貴志祐介の鍵のかかった部屋を読みました。 美人弁護士青砥純子とセキュリティショップの榎本径が登場する密室ものの短編集2冊目でした。
この4編でも、密室に関する謎解きを楽しみました。 私は、数学の定理の証明のようなミステリーはあまり好きではないのですが、この短編集の謎解きはとても面白く読みました。
「密室劇場」は、貴志祐介らしくないギャグと下品なジョークが満載の爆笑編で、電車で小説を読みながら笑いをこらえるのに苦しみました。 そういえば、青砥純子は初めは美人弁護士だったのですが、榎本とコンビを組んで謎解きしているうちに天然のボケ役お姉さんになってしまいました。 それも、物語の中ではいい味を出しているのでしたが。


2012年12月21日

貴志祐介の狐火の家を読みました。
硝子のハンマーに登場した、美人弁護士青砥純子とセキュリティショップの榎本径が登場する密室ものの短編集でした。
4編とも、二人が密室の謎を考える途中経過の思考経路が面白く、そして驚きの真相、密室ものの傑作だと思いました。
貴志祐介の物語は怖い物語も多く、読みたいけど怖い、というようなジレンマがあるのですが、この短編集は純子と榎本の掛け合いがコミカルでとても面白く読みました。 特に「黒い牙」は純子の逡巡が同感出来る物語でおすすめです。


2012年12月16日

桐野夏生のローズガーデンを読みました。 顔に降りかかる雨などの作品に登場する女性の探偵、村野ミロが登場する短編集でした。
美人で性的に奔放であるが落ち着いた雰囲気の女性が主人公で、探偵事務所に持ち込まれるダークな事件を解き明かしていきます。 以前の物語を読んだときは物語がピンと来なかったのですが、今回は短編集と言うこともあり、面白く読みました。


2012年12月16日

石田衣良のPRIDEを読みました。 池袋西口公園物語の10冊目でした。 一旦IWGPはこの巻で完結するようです。
9巻ではちょっと幻滅してしまったのですが、今巻はマコトの物語を面白く読みました。
北口アイドル・アンダーグラウンドは地下アイドル:イナミが登場する物語でしたが、アイドルとファンたちの熱いつながりが描かれていてIWGPらしいと思いました。


2012年12月15日

辻村深月のゼロ、ハチ、ゼロ、ナナを読みました。
幼なじみの友人望月チエミが母親を殺害して逃げてしまい、行方がわからなくなりました。 神宮司みずほはチエミの失踪の情報を求めて友人や知人を訪ね、チエミの行く先を探ろうとします。
母親との葛藤、女の子どうしの付き合いの難しさを抱えて、チエミもみずほも生きているのでした。 男の子から見ると女の子はきれいで楽しそうでうらやましく思えるのですが、女の子として生きていくのも結構つらいものなのかなあ、と思ってしまいます。


2012年12月15日

近藤史恵のモップの魔女は呪文を知ってるを読みました。 天使はモップを持ってシリーズ、深夜の清掃員キリコが主人公のミステリー短編集でした。
今作でも、ポップな服装で掃除をするキリコが4つの短編で活躍しますが、「第二病棟の魔女」のトリックがちょっと面白いと思いました。


2012年12月13日

辻村深月の冷たい校舎の時は止まるを読みました。 辻村深月の処女作と言うことで、高校の3年間をかけて書いたミステリーだそうです。
登場人物は8人、その8人が誰かの思考の中に閉じ込められてしまいます。 2ヶ月前の学園祭最終日に高校の屋上から飛び降り自殺した同級生がキーになるのですが、閉じ込められた高校生たちにはそれが誰であったかという記憶が消されてしまっています。
リアル脱出ゲームのように、ひとり、またひとりと登場人物たちがこの空間から消えていきます。 この思考空間は誰の思考なのか、そして自殺した同級生は誰なのか、という謎が提示されます。
謎解きも面白かったのですが、それよりも8人それぞれが抱えている事情や悩みが等身大に描かれていたのが好い印象を与える物語でした。


2012年12月7日

絲山秋子の絲的サバイバルを読みました。 絲山秋子が高崎の近場で一人キャンプを行い、その経緯をエッセイに書くという企画のエッセイ集でした。
出不精なkonnokとしては、キャンプの話はピンと来ない内容でした。
しかし、絲的メイソウと同じような、新鮮なレタスのサラダのようなシャキシャキした歯切れの良い文章を楽しみました。


2012年12月3日

畠中恵のゆんでめてを読みました。 江戸時代の妖が活躍するしゃばけシリーズの9冊目です。 江戸の廻船問屋長崎屋の若旦那一太郎と病弱な一太郎を取り巻く妖たちの物語でした。
今回は、ある日祠の前を左手に曲がるつもりだった一太郎が右手に曲がってしまったため間違った時間の流れに入ってしまう、という斬新な趣向がこらされています。
ケン・グリムウッドの「リプレイ」のように、ある時点での選択がそれ以降の人生を大きく変えてしまったため、その時点まで戻って人生をやり直すという物語になっています。 新しい趣向に載って語られていますが、いろいろな事件が起きておなじみの妖たちが活躍するので面白く読みました。


2012年11月30日

三浦しをんの舟を編むを読みました。 私はあまり単行本は買わないのですが、この本の辞書のような装丁を見て一目で気に入ってしまいました。
人付き合いは不得意だけど、言葉に関する感性はずば抜けている馬締光也は、定年間近の荒木公平に見いだされて辞書編集部に異動します。 辞書編纂に半生を捧げた松本先生、荒木、契約社員の佐々木さん、同僚の西岡といった人たちに囲まれながら、馬締は国語辞書「大渡海」の編纂を進めていくのでした。
15年という長い地道な準備期間を経て「大渡海」が世に出るまでの苦労が物語られていきます。
馬締の妻で板前の香具矢、途中から辞書編集部に参画した岸辺みどり、辞書の用紙を作る製紙会社の宮本といった脇役も光っていて感動的な物語になっています。


2012年11月28日

宮部みゆきのここはボツコニアン2を読みました。 「タクティクスオウガ 運命の輪」のやり過ぎで五十肩を発症したという宮部みゆきのボツネタ・パロディ満載のギャグ小説の二巻目でした。
ピピとピノの姉弟(略してピノピ)はフネ村からモルブディア王都をへて水の都アクアテクに到着します。 アクアテクは魔王の伝説がある街で、ピノピも街の中で起きる事件を解決したりしながら長靴の戦士としての冒険を続けます。 そして、物語はあんまんの話からなぜか二軍三国志の物語に迷い込んでいくのでした。
まあ、ギャグ小説なので、そこかしこにボツネタやギャグが散りばめられていて飽きません。


2012年11月26日

宮部みゆきのここはボツコニアンを読みました。 テレビゲーム好きで知られる宮部みゆきが書いたボツネタ・パロディ満載のギャグ小説でした。
本物の世界のボツネタが流れ着く、できそこないの世界「ボツコニアン」が舞台です。 ボツコニアンのフネ村で育った12歳のピピとピノの双子の姉弟が長靴の戦士として冒険に旅立ちます。 子供が書いた花の絵のようなトリセツ、炎をふく空龍、わらわら(雑食の蚕のような虫たち)、クトゥルー的なみなさん、王様のモンゾウと王宮の下に広がる迷宮の主ハンゾウ(二人合わせてモンハン・ポータブル)、といったギャグ満載の登場人物たちがドタバタギャグを繰り広げます。
小説としての完成度は低いですが、B級グルメ的な味わいがkonnokのツボにはまりました。


2012年11月24日

小路幸也のダウンタウンを読みました。
高校生の僕は中学の時の先輩ユーミさんに誘われて、「ぶろっく」という喫茶店に行きます。 店長のカオリさんや常連さんたちに温かく迎えられ、僕はその喫茶店の常連になります。 音楽仲間の孝生や「ぶろっく」の店長、そして常連さんたちの抱えるものを知って僕は大人になっていくのでした。
昭和を舞台にした物語なのですが、konnok的にはピンと来なかったのが残念です。


2012年11月23日

江國香織の赤い長靴を読みました。
結婚して10年、子供がいない日和子と逍三の夫婦の物語でした。 家に帰ると服を脱ぎ散らかし、風呂から上がると身体を十分に拭かずにベッドに横になる逍三、その行動に不満を持ちながら抑圧してしまう日和子。 夕食後に日和子から話しかける言葉は逍三には届きません。 しかし、二人とも穏やかに不器用に相手に対する愛情をもっているのでした。
落ちそうで落ちない釣石神社の岩のように二人の生活は続いていくのでした。 江國香織らしい不思議な雰囲気の夫婦の物語でした。


2012年11月19日

高木仁三郎の宮澤賢治をめぐる冒険を読みました。
水や光や風のエコロジーという副題のついた、宮澤賢治の「われわれはどんな方法で、われわれに必要な科学を、われわれのものにできるか」という事がテーマの本でした。
著者は大学で核開発に関する研究をしていたのですが、その開発方法に疑問を感じて、教職を辞めてしまい「原子力資料情報室」を開設したとのことでした。 科学を真に自分たちの役に立つようにするためにはどうすれば良いのか、ということが宮澤賢治の主張を引き合いに出しながら解説されています。
環境ということばがあるけど、これは西欧的な考え方で、人間が中心にいてそのまわり(環境)を開発・整備していく必要がある、という考えかたです。 でも、自然がまず正しい状態になっていて、人間がそれにどれだけ合わせていけるか、エネルギーにしても化石燃料や原子力を使わずに、太陽エネルギーの範囲内でどれだけ人間が適応して生きていけるか、と言うことが重要だと主張されていて、私も同感でした。
宮澤賢治の著作を再度よく読み直してみたいなあ、と思ったのでした。


2012年11月19日

辻村深月のツナグを読みました。
亡くなってしまった人に一晩だけ会うことが出来たら、あなたは誰を指名しますか、というテーマの短編集でした。
突然死したアイドルを心の支えにしている孤独なOL、母親にがんの告知をしなかった頑固な息子、親友に嫉妬してしまい後悔する女子高生、突然失踪した恋人を待ち続ける会社員、といろいろなシチュエーションでの物語が語られていきます。
そして、最後に死者を呼び出す使者を引き継ぐことになる高校生の覚悟が語られます。
読み終わった後に、心の中に暖かい固まりができるような物語でした。


2012年11月12日

森見登美彦の宵山万華鏡を読みました。 幻想的な美しいイメージと猥雑な諧謔が同居する、森見登美彦らしい短編集でした。
宵山祭りの楽しさと、非日常の怖さが描かれています。
どの短編にも、赤い浴衣を着て宵山の人混みの中を泳いでいく、金魚の群れを連想させる少女たちが登場します。 そのイメージがこの短編集の主題になっていました。


2012年11月12日

村上春樹のめくらやなぎと眠る女を読みました。 外国の読者向けに編集された24の短編が収録された短編集でした。
村上春樹の短編は印象に残っているものが多く、バースデイ・ガール、僕らの時代のフォークロア、7番目の男、ハナレイ・ベイ、どこであれそれが見つかりそうな場所で、と言った短編は懐かしく読みました。 ときどきは、村上春樹の小説を読み直すのも良いなあ、と思ったのでした。


2012年11月3日

宮部みゆきのおまえさんを読みました。 ぼんくら、日暮らしに続く同心・井筒平四郎シリーズの3冊目でした。
今作では生薬屋で20年前に起きた事件を発端に、殺人事件が起きてしまいます。 その事件の捜査野中で、平四郎、甥の弓之助、おでこの三太郎、煮物屋のお徳、岡っ引き政五郎、その妻お紺、同僚の同心間島信之輔、といった常連たちが活躍します。
弓之助の名推理で犯人が判明し、重要参考人が逃げてしまった後に、政五郎の視点、長屋の差配人丸助の視点、間島信之輔の視点で登場人物たちの想いや悩みがくっきりと描かれていきます。 そして、弓之助、信之輔といった若い人物たちが成長していくさまがほほえましく書かれているのでした。


2012年10月30日

夏海公司のなれる!SE7を読みました。 目からウロコの?客先常駐術という副題のついた、なれる!SEシリーズの7冊目です。
ブラック企業スルガシステムに入社した桜坂工兵も室見のOJT指導の下、やっと仕事が出来るようになってきました。 そんな室見と桜坂に、大赤字システム、デスマーチ進行中のプロジェクトへの派遣の仕事が回ってきます。 セキュリティで縛られ、十分なツールも与えられない、資料の持ち込みも許可されない、狭いオフィスで室見と桜坂の苦闘が始まります。
何となく、どこかで見たような状況、こんなプロジェクトにはかかわりたくないなあ、と物語を読んでいきました。 しかも、管理者はSEの人間性など認めようともせず、奴隷船のような状況が繰り広げられるのでした。
しかし、途中でのどんでん返しで背筋が冷たくなるような真相が明かされます。 そのプロジェクトはほんとうに魔窟なのでした。 この恐ろしい真相も、あながちフィクションだけじゃないかもしれない、と思ってしまうところが怖いですね。


2012年10月22日

佐藤正午のYを読みました。
konnokのお気に入りの小説である、ケン・グリムウッドの「リプレイ」を下敷きに書かれた小説でした。
主人公秋間は40代の会社員で、妻から離婚届を突きつけられています。 妻が出て行ったその日、秋間のところに高校時代の同級生と名乗る北川という男性から電話が入ります。 北川は秋間の親友だったと名乗るのでしたが、主人公は北川を覚えていないのでした。
ところが、北川の秘書と名乗る女性から渡されたフロッピーディスクに書かれている物語を読んでいくと、秋間は北川の物語を信じることになるのでした。
時間を遡ってまでかなえようとした北川の想いが心に余韻を残す物語でした。


2012年10月18日

佐藤多佳子のスローモーションを読みました。
柿本千佐は高校一年生の女の子。 厳格な教師の父親と専業主婦の母親、元不良でバイクで事故ってしまい足を引きずっているニイちゃんとの4人暮らし。 ニイちゃんは二十二になるのに定職にも就かずぶらぶらしている。
千佐は行動がスローモーションなクラスメートの及川周子が気になるのでした。
千佐から見た高校生活、そしてニイちゃんと周子の同棲とその結末が描かれていきます。 物語のテーマはちょっと暗いですが、千佐のしなやかな感性で語られるとさわやかに感じられるのでした。


2012年10月18日

三浦しをんのまほろ駅前番外地を読みました。
まほろ駅前多田便利軒のサイドストーリー短編集でした。 東京都外れのまほろ市で便利屋を営む多田と行天にからんだ人物たちにスポットをあてた7つの短編が収録されています。
若き裏社会のボス、今はぼけてしまったけど昔はまほろ小町と呼ばれたおばあさん、ちょっとませた小学生、バスの運行監視を行う夫にあきれる妻、と言ったそれぞれの登場人物が人間くさく描かれていて物語に引き込まれてしまいます。


2012年10月17日

中山七里のさよならドビュッシーを読みました。
火事で全身やけどを負ってしまったヒロインが、天才ピアニストの薫陶を受けてピアニストとして育っていくという物語でした。 ヒロインがリハビリをしている期間に不審な事故が発生し、殺人事件が起きてしまいます。 登場人物が限られているので、この中に本当に犯人がいるのか、と思わせられますが、驚愕の謎解きが待っているのでした。
ミステリーとしては確かに面白いと思いましたが、トリックがトリックだけに、人物の描き込みがちょっと薄くなってしまったかなと思いました。 まあ、登場するピアノ曲がわからないので、ピアノの演奏に関する描写がピンと来なかったのが残念でした。


2012年10月14日

米澤穂信のふたりの距離の概算を読みました。 神山高校古典部シリーズの第五作目でした。
新学期になり折木や千反田たちも二年生になります。 古典部も新入部員の勧誘をするのでしたが、予想通り新入部員が来そうもありません。 ところが、折木と千反田の会話(掛け合い?)を横で聞いていて「仲良しオーラを感じるので」古典部に入りたいという新入生大日向がいたのでした。
ところがところが、その大日向はなぜか千反田を怖がり、古典部に入部するのをやめてしまいます。 折木は、全校マラソン大会にエコモードで参加しながら、福部、伊原、千反田と会話をした後、大日向と話をして大日向の誤解を解くのでした。
今回の謎解きも面白かったし、それぞれのキャラクターもしっかり描かれていて面白く読みました。


2012年10月12日

森絵都のいつかパラソルの下でを読みました。
厳格な父親に育てられた柏原野々は、父に嫌気がさして家を飛び出してしまいます。 友人の天然石を売る店でアルバイトをしている野々は達郎のアパートに転がり込んで生活しています。
厳格な父親が亡くなって、四十九日、父親が浮気をしていたという女性から連絡があります。 その真偽を確かめるために野々と兄と妹の3人は調査を始めるのでした。 父親が言っていたという「暗い血」とは何かを知るために、兄妹は父親の故郷佐渡を訪れて少年時代の足跡を辿ろうとします。
その旅を通じて、兄妹は父親の呪縛から解放され、自分たちを見つめ直すことになるのでした。


2012年10月11日

三崎亜記の廃墟建築士を読みました。 三崎亜記らしい不思議な世界設定とその世界の中で生きていく人間たちが描かれた四つの短編が収録されています。
七階闘争では、ある街で7階での犯罪が多発したため、その街の7階を全て撤去することになる、という物語が語られます。 7階というのがO型だったらどうだろう、○○県出身者だったらどうだろう、何かがターゲットになる怖さが描かれます。
図書館と蔵守は、人間がコントロール出来ない超自然の存在に立ち向かう人たちが描かれています。 なぜか、この短編を読んで、故障した原発で苦闘する人たちを連想しました。
四編ともそれぞれ考えさせられる物語でした。


2012年10月9日

加納朋子のコッペリアを読みました。 コッペリアという機械人形に恋した男のエピソードをモチーフにした小説でした。
加納朋子の小説というと、等身大の若い女性がさわやかに描かれている物語が多いのですが、この物語のヒロインは美人で男を渡り歩く悪女なのでした。 それに、精神を病んでいる人形作家、お金持ちの宝石商二代目、ヒロインをつけ回すストーカーなどがからんで物語が進んでいきます。
このヒロインは天性の悪女ではなく自分が何をしているか自覚して行動している、というのが加納朋子らしい設定だと思いました。 読後感はそれほど悪くありませんでした。


2012年10月6日

綿矢りさのインストールを読みました。
女子高校生がひょんなことから登校拒否することになり、小学生の男の子と交代で風俗嬢の代わりにエロサイトでチャットをする、という物語が淡々と描かれていきます。
主人公たちが何かを主張しているわけでもないし、まわりの大人たちもエキセントリックに描かれているだけなので、この作家がこの物語で何を主張したいのかよくわかりませんでした。


2012年10月4日

米澤穂信の遠まわりする雛を読みました。 神山高校古典部シリーズの第四作目の短編集でした。
本編では神山高校入学から文化祭通称カンヤ祭までの期間が物語られていましたが、この短編集では一年の間の七つの短編が収録されています。
まだ出会ったばかりの千反田と折木、氷菓事件が解決したあとに4人で行った温泉旅行での出来事、正月に二人で納屋に閉じ込められてしまう事件、冬期限定 手作りチョコレート事件、そして出会って1年経った頃の千反田と折木。
だんだん二人の距離が近づいてくるのがほほえましく描かれていて、気持ちよく読むことが出来ます。


2012年9月30日

米澤穂信のクドリャフカの順番を読みました。 神山高校古典部シリーズの第三作目でした。
神山高校文化祭、通称カンヤ祭の3日間が、千反田、福部、伊原、折木の古典部4人のそれぞれの視点から描かれていきます。
古典部も文化祭に参加するのですが、一つ重大な問題が発生してしまいます。 文化祭で30部売る予定の古典部の文集が、手違いにより200部印刷されて納品されてしまったのでした。
4人それぞれに古典部の文集を売ろうと活動するのですが、そこに「十文字」事件がからんで物語が急展開していきます。 最後はいつもの折木奉太郎の謎解きで、それぞれの小さな事件が関連していることが明らかになるのでした。
文化祭の各部の様子が生き生きと描かれているし、伊原が漫画研究会で苦闘する姿も描かれていて、謎解きだけでなく面白く読みました。


2012年9月27日

米澤穂信の愚者のエンドロールを読みました。 神山高校古典部シリーズの第二作目でした。
神山高校文化祭、通称カンヤ祭に2年F組の演し物として制作中のビデオ映画ミステリーが、脚本担当の女生徒の心理的な不調のため暗礁に乗り上げてしまいます。 そこで、白羽の矢が立ったのが古典部の千反田、福部、伊原、折木の4人でした。 彼らはビデオ制作にかかわった生徒たちからヒアリングを行い、ミステリーの結末を考えるのでした。
謎が幾重にも重なっていて、これで一件落着かと思っても、その後ろに別の謎が隠れているという構成が面白いと思いました。
エンディングの「L:ふしぎなガラスですね」で吹き出してしまった私は、千反田えるが気に入ってしまったようです。


2012年9月25日

米澤穂信の氷菓を読みました。
神山高校古典部を舞台に、名家の令嬢千反田える、知識が幅広い福部里志、毒舌家の伊原摩耶花、そして主人公の折木奉太郎の4人が活躍する学園ミステリでした。
今回は、千反田えるの伯父関谷純が三十三年前古典部でどのような事件に巻き込まれたのか、という謎がテーマになります。 古典部の4人は昔の資料を集めて謎解きをするのでしたが、思いもかけないところに当時の事情を知る人がいて、古典部の推理がほぼ正しかったことが判明するのでした。
今回の謎解きを聞いて、榊原郁恵を連想した私は古い人間です。


2012年9月22日

小路幸也の早坂家の三姉妹を読みました。
早坂家のあんず、かりん、なつめは仲のよい三姉妹です。 母親が早くに亡くなってから、父親は男手一つで3人を育ててくれました。 父親が再婚したけど、若い義母とも仲よく暮らしています。
ところが、そこにずっと音信不通だった叔父が訪ねてきたことから、父親と母親と叔父の過去が明らかになるのでした。 大人たちの暗い過去も三姉妹たちは受け入れていくのでした。
三姉妹とそれぞれの魅力的なボーイフレンドたちとのかかわりも描かれていて気持ちのよい物語になっていました。


2012年9月20日

桜庭一樹の伏を読みました。 贋作・里見八犬伝、と副題がついているとおり、南総里見八犬伝をモチーフにした小説でした。
江戸の街に伏と呼ばれる犬人間が跋扈し、人間を喰い殺すという事件が起きます。 この伏を狩る狩人の一人、14歳の女の子浜路が主人公の物語でした。
浜路が伏を狩る描写や、途中に挿入される伏姫と八房のエピソードも面白く読みました。 しかし、読み終えても心に訴えかけてくるものがないなあ、と感じたのが残念でした。


2012年9月14日

小野不由美の華胥の幽夢を読みました。 十二国記の7巻目でした。 この巻ではいままで描かれていた長編の物語に関連する5つの短編が収録されています。
「冬栄」は載国王からの指示で泰麒が漣国に赴く物語、「乗月」は芳国王を倒した月溪が芳国の偽王として立とうとする物語、「書簡」は慶国王陽子と雁国で学ぶ楽俊との往復書簡の物語、と面白く読みました。
「華胥」は、才国を舞台に采麟と才国王の物語でした。 この物語の中で「責難は成事にあらず」と言う言葉が語られます。 前王の国策の失策を責めることは簡単だけど、それは何かを正すことではない。 現政治の失策を責めるなら、それに替わる政策を提示出来なければいけない、それが出来ないなら責めることは無責任だ、という主張でした。 インターネットで垂れ流されている小賢しい意見たちに対する批判に聞こえました。
全7巻を読んでみて、十二国記とは、小野不由美による壮大な思考実験なんだなあ、と思いいたりました。 王は天命をもって麒麟に選ばれる、麒麟は仁によって王を選ぶ、王および政治の上層部は仙となって不死となる。 王が仁道から外れてしまうと、麒麟は病んでしまい、国が傾いてしまう。
このような前提条件のもとで国はどのように進んでいくのだろうか、ということが十二の国それぞれの条件で描かれていきます。 長く安定した王国が続く国、短命の王が入れ替わる国、麒麟も王もいなくなって荒れてしまうだけの国、それらの違いはどこから来るのか、ということを考えさせられます。


2012年9月11日

北村薫の元気でいてよ、R2−D2を読みました。
怖い話、せつない話が収録された短編集でした。 表題作の「元気でいてよ、R2−D2」と「ざくろ」の2編はせつない、そして心に残るお話でした。
前書きに妊娠中の人は読まないでください、と書かれていた「腹中の恐怖」は確かに怖い物語でした。 文章は明るく書かれているのに、「呪い」という言葉がぴったりくる物語でした。
「よいしょ、よいしょ」に出てくる、木の根っこが水の中に引きずり込まれる怖い昔話は、以前耳にしたことがあるような気がしました。 単なるデジャブかもしれませんが。
そして「三つ、惚れられ」に登場する若砂亜梨沙は困った子ちゃんとして描かれているのですが、その行動が妙に気に入ってしまいました。 こんな女の子がいたら職場も妙に楽しくなるんじゃないかな。 まあ、マグカップがいくつあっても足りないかもしれないけど。


2012年9月8日

百田尚樹の影法師を読みました。 江戸時代の日本海側の小藩を舞台にした武士の誓いの物語でした。
下級武士の生まれの戸田勘一は竹馬の友で学問にも武芸にも秀でた磯貝彦四郎と藩校でともに学び、刎頸の契りをむすびます。 勘一が藩の財政を立て直そうと奮闘するのを見た彦四郎は、それを成就させるために自らを捨てて密かに勘一を助けるのでした。
彦四郎ができすぎ君なので、ちょっと物語に感情移入しにくく感じたのが残念でした。


2012年9月5日

沼田まほかるの痺れるを読みました。 女性たちが主人公の怖い短編集でした。
恐ろしい過去を隠しているため正気を失いつつある女性が主人公の「林檎曼荼羅」では、その女性の視点から見たゆがんだ世界が克明に描かれます。 普通に暮らしている女性が遭遇する事件を描いた「テンガロンハット」では、奇妙な男性につきまとわれてしまう女性の困惑が描かれます。
自分の立っている地面が底なし沼に変わっていくような、きもちが悪い、しかし頭の隅に残ってしまう物語たちでした。


2012年9月1日

小野不由美の黄昏の岸 暁の天を読みました。 十二国記の6巻目でした。
戴国では新しい王が立った後、その王が謀反にあって行方不明になってしまいます。 その王を選んだ麒麟の泰麒は裏切り者の手にかかり、蝕を起こして十二国記の世界から蓬莱(日本)に戻ってきてしまいます。
戴国の将軍李斎は自国を救うために重傷の身体で慶国にたどり着き、慶国の国王陽子に助けを求めます。 陽子も蓬莱で育ったので、泰麒のことは他人事とは思えず助けようとするのでした。
しかし、戴国国王も行方不明、麒麟泰麒も行方不明の八方ふさがりの中、陽子に出来ることは限られているのでした。 李斎の情熱に動かされ、陽子や他の国の麒麟も手伝って泰麒を見つけることは出来たのでしたが...
エンディングで示される李斎と泰麒の覚悟がまぶしい物語なのでした。


2012年8月31日

伊坂幸太郎のあるキングを読みました。
マクベスの物語を下敷きにした、野球の才能は優れているのに諸般の事情で活躍出来なかった山田王求(おうく)の寓意に満ちた物語でした。 konnokは野球をよく知らないので、この物語で伊坂幸太郎が何を言いたいのか、イマイチよくわかりませんでした。


2012年8月29日

有川浩のフリーター、家を買うを読みました。
就職した会社を3ヶ月で辞めてしまった武誠治はだらだらとフリーター生活をしています。 ところが、母親が永年の近所からのいじめが原因で心を病んでしまいます。
母親の病気を治すためには家を引っ越した方がいいわけですが、理解の無い父親は聞く耳を持ちません。 誠治は土方のアルバイトで金を貯め、家を買おうとするのですが...
家族に甘えていた怠惰な誠治が、自分に目覚めて普通の社会人になっていく様子が描かれています。 ちょっと物語が出来すぎのような気もしましたが、面白く読みました。


2012年8月26日

村上春樹のおおきなかぶ、むずかしいアボカドを読みました。 村上春樹がアンアンに連載したエッセイ集でした。
ロシア民話の「おおきなかぶ」は幼稚園の劇の定番だけど、蕪が抜けるところで終わっている。 でも、その蕪はきっと料理をして食べたんだろうけど、その後の物語がどうなったかを気にしている人はいない。 抜くときに手伝ってもらった鼠なども呼んで、「大きな蕪って実は美味しくないね」などと話したのではないか。
というように、ちょっと変わった切り口でいろいろな些末なことがらについて村上春樹らしいコメントが書かれています。 私はこのような切り口が結構好きで、とても面白く読みました。


2012年8月23日

上橋菜穂子の獣の奏者 探求編を読みました。
以前、闘蛇編、王獣編を読んでいたのですが、今回、探求編、完結編を読みました。 王獣編では18歳だったエリンも、探求編では30歳の大人の女性に成長していて、最愛の夫と一人息子もいるのでした。
この物語の中では戦の主力となるのは闘蛇と呼ばれる猛獣たちで、闘蛇村という闘蛇部隊を育てる組織があるのでした。 エリンは闘蛇の天敵である王獣たちを竪琴を使って操ることが出来るようになったため、過酷な人生を歩むことになってしまいます。
エリンは言い伝えにある闘蛇たちと王獣たちが戦うときに起きる悲劇について探求を進めていきます。 エリンは穏やかな家族だけの生活を望んでいるのですが、その世界の情勢がそれを許さないのでした。
人間がいろいろな兵器を開発するということが、どういう結末をもたらすのか、という問いに対しての上橋菜穂子の答えが物語られています。


2012年8月17日

小野不由美の図南の翼を読みました。 十二国記の5巻目でした。 今巻は、王が倒れて王不在の期間が続いている恭国が舞台でした。
恭国の富豪の娘で、十二歳の珠晶は黄海(と言っても海ではなく、妖魔妖獣が跋扈する荒れた土地)を旅して麒麟が王を選ぶという蓬山をめざします。 気が強く聡明な珠晶は頑丘、利広という頼りになる連れを得て旅を続けていきます。
蓬山をめざして旅をすると言うこと自体が、王を選別するための試練である、という物語を楽しみました。 珠晶は4巻目の風の万里 黎明の空でもちょっとだけ登場しますが、なるほど、こういう人だったからあのような態度だったのね、と納得しました。


2012年8月11日

東野圭吾のダイイングアイを読みました。 交通事故の加害者と被害者を題材にしたミステリーでした。
交通事故の被害者の家族から報復の暴行を受けて記憶を一部なくしてしまった主人公が、自分の記憶を取り戻しながら、謎を解き明かしていきます。 記憶を取り戻していく中で、その交通事故が単純な事故ではなかったことが明かされていきます。
事故で亡くなった女性の怨念が取り憑くという怪談のような設定もあって、夏の夜に読むのにはふさわしい物語でした。


2012年8月8日

宮部みゆきの英雄の書を読みました。
「物語」をテーマにした怪奇小説でした。 この物語の主人公は小学生の森崎友理子(ユーリ)です。 ユーリは「英雄の書」という呪われたアイテムに触れてしまったために殺人を犯して失踪してしまった兄を探す冒険に出るのでした。 意識を持った古い本たちの助けで物語の世界に送られたユーリは「英雄の書」に描かれた黄衣の王を追い求めてヘイトランドという物語の世界を冒険していきます。
宮部みゆきの小説にしては登場人物たちが説明する記述が多いなあ、と思って読んでいましたが、新聞の連載小説として書かれたとのことで、納得しました。
「英雄」には光り輝く面と暗黒の面の両面がある、という主張など、変わった切り口での警句も随所にあり、それも面白く読みました。


2012年7月30日

小野不由美の風の万里 黎明の空を読みました。 十二国記の4巻目でした。
今巻では、1巻目で登場した陽子が苦難の末、慶国の女王になった後の物語が語られます。 蓬莱(日本)で普通の女子高生として育った陽子には、慶国の常識がわかりません。 王宮の家臣たちに対して指示を出すことも出来ない陽子は、市井に出て国の実情を学ぼうと考えるのでした。
そんな陽子に、芳国の王女でありながら父母を殺されてしまった祥瓊、才国で仙に仕えていた鈴、という二人の少女の人生がからんで物語が進んでいきます。 私腹を肥やして暴虐の限りを尽くす拓峰の昇紘、和州の牙峰や宰相の靖共を間近に見て何も出来ないことを嘆く陽子。 しかし、祥瓊と鈴との出会いから、陽子は慶国の人々のために彼らと戦うことを決意するのでした。
物語のエンディングではちょっと水戸黄門的なやりとりがあって笑えますが、3人の少女たちの成長する姿がほほえましい物語でした。


2012年7月28日

遠藤秀紀の人体 失敗の進化史を読みました。
生物学の研究成果をもとに、動物、ほ乳類そして人類の進化がどのように行われたのか、という解説書でした。 生物が進化するときのメカニズムは、新たに機能を獲得するのではなく、あり合わせの材料を使ってつぎはぎだらけの機能として実現しているというのが面白いと思いました。 肺に適応できる浮き袋を持っていた種が海から地上に上がって呼吸することができた、と言うふうに、たまたま、新しい環境に適応できる機能を開発していた(前適応というそうですが)種が進化の主役になっていくという指摘が面白いと思いました。
人類の進化は劇的な能力向上をもたらしたのですが、地球の自然環境を大きく破壊する行動を繰り返しています。 以前から思っていたのですが、この本を読んで、人類というのは地球の自然環境にとってがん細胞のようなものなんじゃないか、という思いを強くしました。


2012年7月24日

万城目学のザ・万遊記を読みました。 湯治・スポーツ観戦・「渡辺篤史の建もの探訪」・北朝鮮訪問といったテーマのエッセイ集でした。
ダジャレ三連発の話題をはじめとした大阪のノリは面白く読みました。 しかし、それ以外の話題がほとんどkonnokとしては興味のないテーマだったので、ちょっとイマイチと感じました。


2012年7月21日

有川浩のラブコメ今昔を読みました。 有川浩おなじみの、自衛隊を舞台にした、あま〜いラブコメ短編集でした。
ラブコメと言っても、いろんな切り口があるものだなあ、と感心しながら面白く読みました。 1編目の30年前のラブコメと巻末の現在のラブコメがコントラストになっていて面白いと思いました。


2012年7月18日

冲方丁のストーム・ブリング・ワールドを読みました。 culdceptというコンピューターゲームをテーマにしたボーイミーツガールの物語でした。
culdceptというのはトレーディングカードゲームとボードゲームを融合したゲームで、戦略性だけでなく美しいカードのイラストも魅力的なゲームです。 物語ではそのゲームに登場するカードたちが魅力的に描かれていて、ストーリーが進むに伴い活躍します。 それぞれのカードの特徴が物語にも反映されていて、読んでいて嬉しくなります。
ストーリーもひねりがあるし、ちょっとラブコメの風味もあるし、戦闘の描写は臨場感があるし、culdcept好きとしては至福の物語でした。


2012年7月14日

小川洋子の猫を抱いて象と泳ぐを読みました。 チェスを指すからくり人形の中に入ってチェスを指したというリトル・アリョーヒンの物語でした。
リトル・アリョーヒンがどのようにしてチェスを教わったのか、なぜ窮屈なからくり人形に入ってチェスを指すことを望んだのか、ということが語られます。 デパートの屋上にいるうちに大きくなってしまい、降りることができなくなって死ぬまで屋上で過ごした象のインディラ、ポーンと名付けられたチェスを教えてくれた先生の猫、それらの思い出とともにリトル・アリョーヒンはからくり人形の中でチェスを指すのでした。
チェスに対するリトル・アリョーヒンの静かな情熱が忘れがたくなります。


2012年7月12日

松久淳と田中渉のあの夏を泳ぐを読みました。 天国の本屋シリーズの4冊目です。
この世に未練を残して天国に行ってしまった人の想いを届けるために、天国の本屋の店長ヤマキは生きている人間を天国の本屋に招待するのでした。 今回のヒロインたち朝子と麻子は高校時代に競泳をやっていたのですが、先輩の男性コーチが不慮の事故で亡くなってから10年近くの間、泳ぐことをやめてしまいました。 天国の元コーチは彼女たちがまた水泳を始めることを望んでいるのでした。
ほのぼのとした挿絵と暖かいストーリーが今回も楽しめました。


2012年7月9日

小野不由美の東の海神 西の滄海を読みました。 十二国記の3巻目でした。
今巻では、陽子の物語の時にも登場した雁国の延王尚隆と延麒六太が活躍します。 延麒六太に選ばれて荒れ果てた雁国にやってきた尚隆は雁国の復興に力を尽くします。 しかし、王も麒麟も破天荒な性格で、側近たちは心の安まる暇もありません。
尚隆の努力のかいもあって雁国の国内も少しずつ落ち着いてきたとき、元州の州候が延麒六太を誘拐して彼を人質に謀反を起こします。 その謀反の顛末が語られていく中で、尚隆と六太の絆が描かれていくのでした。
神獣麒麟が国王を選び、その国王が国を治める、というような世界で、人々はどのように生きていくのか、という問いかけとそれに対する答えを面白く読みました。


2012年7月7日

三浦しをんの風が強く吹いているを読みました。
膝を故障してしまい長距離走の選手をやめてしまった清瀬灰二(ハイジ)は天才ランナー蔵原走(かける)と出会い、これが箱根駅伝にチャレンジする最後のチャンスだと確信します。 ハイジと走はぼろアパート竹青荘(通称アオタケ荘)の個性的な住人たちと箱根駅伝をめざすのでした。
アオタケ荘の住人10人のうち半分以上が陸上をやったことがない、という状況で、本当に箱根駅伝に出走できるのか。 予選会を突破することができるのか、と物語は進んでいきます。
konnokはスポーツは全くできないし、スポーツ観戦もほとんどしないので、スポーツの物語は、安西先生が「あきらめたらそこで試合終了ですよ?」と語るバスケットボールの物語くらいしか読んだことがありません。 初心者や挫折した選手などが心を合わせて戦っていくというストーリーはスラムダンクと共通するところがあるかな、と思ったのでした。


2012年6月28日

恩田陸のきのうの世界を読みました。
水路が張り巡らせられている町に建っている3本の木造の古い塔。 その塔を見守ってきた土木技術集団が伝えてきた、竜が現れるという伝説。
そして、平凡な外見なのに、記憶力が異常に高い男性がこの町に現れて、丘の上で殺されてしまいます。 なぜその男性は殺されたのか、というテーマで町の中の登場人物たちの行動や考えが語られていきます。
着想や舞台設定は魅力的なのですが、物語の詰めがもう一つと感じました。 恩田陸の他の小説でも感じたことですが、おしいなあ、と思ってしまいます。


2012年6月26日

三上延のビブリア古書堂の事件手帖3を読みました。 栞子さんと消えない絆というサブタイトルがついている、ビブリア古書堂の事件手帖シリーズの3冊目でした。
北鎌倉駅のそばにあるビブリア古書堂の店主篠川栞子と、とあるいきさつで店員になった五浦大輔の物語でした。 今巻では10年前に失踪した、栞子の母智恵子についての物語が語られていきます。 古書販売の同業者滝野やヒトリ書房の井上との会話から智恵子のプロフィールが浮かび上がってきます。 栞子の妹文香も密かに物語に絡んでくるのでした。
この物語のテーマは古書とそれに関わる人たちの隠された謎ときです。 今回は栞子と智恵子がかかわる謎が解き明かされていきます。 隠された謎が次々に明かされていくと、いったいこの作者はどれだけ伏線をはっているのだろう、と思ってしまいます。


2012年6月24日

有川浩の図書館戦争のアニメをyoutubeで見ました。 ほぼ原作通りに作られているので、安心して観ていることができました。
原作を読んでいると伏線がよくわかってニヤニヤしてしまいます。 私のお気に入りの柴崎もイメージ通りに描かれていたので満足でした。


2012年6月20日

東野圭吾の聖女の救済を読みました。 ガリレオこと湯川准教授が活躍する探偵ガリレオシリーズの5冊目でした。
湯川准教授に草薙刑事、内海刑事が登場し、殺人事件の捜査が進んでいきます。 湯川が虚数解と呼んだ通常ではあり得ないトリックと、そのトリックが存在しうる前提条件が語られていきます。
東野圭吾の小説には、たびたび意志の強い人物が登場しますが、このヒロインも相当なものだなあ、と思ったのでした。


2012年6月20日

小野不由美の風の海 迷宮の岸を読みました。 十二国記の2巻目でした。
今巻では、蓬莱に流されてしまい日本で10年間を過ごした麒麟、泰麒の物語でした。 麒麟がどのようにして育ち、どのようにして王を選ぶのか、ということが十二国記の世界を舞台に語られていきます。 泰麒は十二国記の世界で育たなかったので、麒麟に転変することも、妖魔を折伏することもできません。 まして王を選ぶ自信もありません。 そんな泰麒がどのようにして王を選び麒麟としての務めを果たしていくのかが物語られていきます。
十二国記は世界観がしっかりしているので、安心して物語を楽しむことができます。
そういえば、妖魔や妖獣、神獣という言葉で女神転生を連想してしまうのはお約束です。


2012年6月20日

夏川草介の神様のカルテを読みました。
「草枕」を座右の書としている内科医 栗原一止、その妻で見かけは少女の登山写真家 榛名、色黒の巨漢医者 砂山次郎、かわいい看護師 水無さん、御嶽荘の住人男爵に学士様と魅力的な人物たちが登場する地方の緊急指定病院を舞台にした物語でした。
夏目漱石に心酔しているだけあって、妻のことは細君、登場する医者は大狸先生に古狐先生と漱石の小説のような語り口で物語が語られます。 栗原医師は母校の大学病院に誘われるのですが、高齢のがん患者安曇さんの死を看取ることでその病院に残ることを決意するのでした。
konnok的にはちょっとしか登場しない東西看護師がなぜか気に入ってしまいました。


2012年6月17日

マイケル・サンデルのこれからの「正義」の話をしようを読みました。
マイケル・サンデルの哲学の講義を本にしたものだそうで、現代の正義とは道徳としては何が正しいのか、ということが議論されていました。 功利主義、リバタリアン(自由至上主義)、カント、アリストテレス、といった人たちの主張がわかりやすく説明されています。
とても面白く読んだのですが、内田樹の本を読んで感銘をうけた konnok としては、アメリカのたちの正義や道徳に関する議論は、数学で言うと公理が間違っている(もしくはkonnokの感覚に合わない)ように感じてしまいます。 今の日本の公衆道徳が衰退していると感じるとき、その原因は戦争に負けて日本の道徳を捨ててしまい、そのようなアメリカの正義を受け入れてしまったためではないか、と考えてしまいます。


2012年6月12日

森見富美彦の恋文の技術を読みました。 京都の大学に通っていた守田一郎は能登にある実験所でクラゲの研究をすることになります。 駅前なのにコンビニもない、さびしい場所に送られてしまった彼は仲間に対して手紙を書くことにします。
恋に悩む大学の友人、私史上最高厄介なお姉様、家庭教師の時の教え子、森見富美彦(守田の先輩らしい)、心優しい妹、といろいろな人に対して文通を始めてしまうのです。 森見富美彦らしい、青春時代の甘酸っぱいにおいがいっぱいの物語でした。
そして、守田一郎が本当に想いを届けたかった相手に手紙を届けることができるのでしょうか。


2012年6月9日

海堂尊のジーン・ワルツを読みました。 現在の医療制度の破綻、地域医療の現状がテーマの医療小説でした。 極北クレーマーと関連する部分も多く、いろいろ考えさせられます。
ヒロインの曾根崎理恵の計略を軸に、極北クレーマーで逮捕されてしまった三枝久広医師の母親が経営するマリアクリニックを舞台に物語が語られていきます。 少子化が問題化されている現代、理恵の発生学の講義・厚生省の施策に対する批判は面白く読みました。
妙高看護師の一言、「赤ちゃんができれば母親の準備は自然と追いつくし、赤ちゃんは世界を一変させる力を持っている」が印象に残りました。


2012年6月6日

奥田英朗の家日和を読みました。 家と家族をテーマにした短編集でした。
ネットオークションにはまって夫の大事なギターを売ってしまう主婦、妻が出て行った後に自分の部屋を「男の隠れ家」にした夫、内職先の若い担当者を見てから変な夢を見るようになった主婦、ロハスにはまって玄米御飯を食べさせる妻に辟易する夫、といろいろな家族の形が描かれています。
それぞれ形は違っても、穏やかな家族模様が描かれているので、安心して読むことができました。


2012年6月5日

辻仁成の代筆屋を読みました。
辻仁成がまだ売れない作家だった頃、吉祥寺の喫茶店の隣に住んでいました。 そこで手紙の代筆屋をしていたときに、印象に残っているいくつかの手紙が紹介されています。
名前もわからない人に書く恋文、家族に向けた遺書、ふらっと恋人の元を去ってしまった女性から恋人への手紙、少年が死の床にいる祖母に宛てて書く手紙。 それぞれの手紙には依頼したひとの想いが込められているのでした。
他人の気持ちを作家が代筆するという行為は、村上春樹のアンダーグラウンドと同じような感動をもたらします。 このような文章が書ける才能のある人だから、小説も書けるんだなあ、と納得したのでした。
印象に残ったのは優柔不断な女性からの代筆依頼の際に書かれた「自分から自分への手紙」でした。


2012年6月2日

江國香織のがらくたを読みました。
45歳の翻訳家柊子は74歳の母親桐子と南の島のホテルに滞在しています。 そこで、出会った15歳の女の子美海と柊子は知り合いになり、美海は東京の桐子の家を訪ねることになります。 柊子の夫や離婚している美海のパパとママが登場して、柊子の視点と美海の視点から交互に物語が語られていきます。
江國香織の描く女性たちは生活感や常識が混じらない、純粋な知性と感情だけで行動するように描かれています。 ファンタジーのような綺麗な物語として読むことができます。


2012年5月29日

東野圭吾のガリレオの苦悩を読みました。 ガリレオこと湯川准教授が活躍する探偵ガリレオシリーズの短編集でした。
科学を題材にした推理小説です。 今作では、湯川と刑事の草薙、女性刑事の内海薫が登場して5つの事件を解決していきます。 久しぶりの東野圭吾の小説でしたが、謎ときも物語も面白く読みました。
「指標す(しめす)」という短編に登場する、良心をしめすダウジングロッドがほしいなあ、と思ってしまいました。


2012年5月26日

瀬尾まいこの図書館の神様を読みました。
女子バレーボール命で高校生活を送っていたキヨは、試合に負けたときに叱責したバレー部員が自殺してしまったことから、バレーボールをやめてしまいます。 大学を卒業して臨時講師をすることになったキヨは、お菓子教室講師の浅見さんと不倫をしていて、講師の仕事もおざなりです。
そんなキヨは部員が一人だけの文芸部の顧問にされてしまいます。 ずっと体育会系だったキヨは小説などを読んだことはありませんが、文芸部員の垣内君と図書館で過ごしていくうちに文学の魅力を知っていくのでした。
キヨの人生が再生されていく物語が淡々と語られていきます。


2012年5月25日

野島伸司のスコットランドヤード・ゲームを読みました。
ボードゲームのスコットランドヤードを題材にした小説でした。 スコットランドヤードは24ターンのうちに5人の刑事が怪盗Xを捕まえるというゲームです。 この小説では、最愛の人を事故で亡くしてしまった女の子と、その女の子を好きになる青年の二人が中心になって物語が語られていきます。 青年の愛や嫉妬や優しさなどの気持ちが5人の刑事になって、女の子の心を捕まえるというモチーフになっています。
途中で明かされる久喜夏彦の正体にはちょっと驚きましたが、まあ、普通の恋愛小説でした。 脚本家が書いた小説なので仕方がないのかもしれませんが、登場人物の気持ちが会話の中で言葉で解説されているのは気に入りませんでした。


2012年5月23日

本多孝好の真夜中の五分前 Side Bを読みました。
かすみさんとゆかりさんの双子の姉妹はゆかりさんの結婚前にスペイン旅行に出かけるのですが、そこで列車事故にあってしまい、かすみさんは亡くなってしまいます。 帰国したゆかりさんはリハビリの後、婚約者の尾崎さんと結婚するのですが、二年後、尾崎さんが「僕」の前に現れるのでした。
エンディングに強い印象が残る物語でした。


2012年5月22日

本多孝好の真夜中の五分前 Side Aを読みました。
広告会社に勤める僕はプールで出会った女性かすみさんから奇妙な依頼をされます。 双子の妹ゆかりさんの婚約のお祝いの品を選んでほしい、との依頼なのでした。
一卵性双生児のかすみさんとゆかりさんは、姿が同じだけでなく、ものの感じ方や好みも同じなので、お祝いの贈り物は全然違う人に選んでほしいということなのでした。 ゆかりさんの婚約者尾崎さんは人柄のよい魅力的な男性で、かすみさんも尾崎さんに秘めた思いを持ってしまっているのでした。 しかし、「僕」とのつきあいの中で、かすみさんはだんだん「僕」への愛情を育てていくのでした。
この人の語り口は、村上春樹の若い頃の語り口に似ているように感じます。 それはこの作家が気に入っているということなのかもしれません。


2012年5月18日

誉田哲也の春を嫌いになった理由を読みました。
26歳フリーターの秋川瑞希は叔母でTV局のプロデューサーの名倉織江から呼び出され、ブラジル人エステラの通訳をすることになります。 ところが、エステラは瑞希の大嫌いな霊媒師なのでした。 瑞希は中学生の頃のトラウマから霊媒師は大嫌いなのでした。
渋々、瑞希は通訳を引き受け、ロケ現場に向かいますが、エステラの透視でミイラ化した死体が発見されてしまいます。 そして、番組の生放送の日、エステラは殺人犯がスタジオに向かっていると透視するのでした。
瑞希の物語と並行して語られる、中国人不法入国者の物語はどのように関係してくるのか、エステラが透視しているものはいったい何なのか。
そして、最後に瑞希が春を嫌いになった理由が語られるのでした。


2012年5月15日

万城目学の偉大なる、しゅららぼんを読みました。 荒唐無稽な設定、壮大な物語、関西のボケとツッコミ、マキメワールドを満喫できる物語でした。
今回の舞台は琵琶湖です。琵琶湖からの不思議な力を代々受け継いでいる湖の民、日出一族の物語でした。 日出涼介は日出一族に伝わる不思議な能力を伸ばすために、高校入学にあわせて琵琶湖畔にある日出の本家で過ごすことになります。 そこで出会う、本家の日出淡十郎、日出清子、日出一族と対立する棗一族の棗広海、校長の娘早瀬、日出家の人たち(源爺、パタ子さん)といった人たちとかかわりながら高校生活が過ぎていきます。
ところが、高校生活を過ごしている涼介たちに、日出一族の存続にかかわる大事件が起きてしまいます。 グレート清子、涼介、淡十郎、棗広海たちはその脅威と不思議な力で戦おうとしますが、かないません。 その事件の黒幕が意外な人物で、驚いてしまいました。 謎解きも良くできていて、なるほどなあ、と納得しました。
ところで、物語にカロムというゲームが登場します。 その名前を聞いたことがありましたが、実物は見たことがありません。 そうか、この辺で遊ばれているゲームなんだなあ、と思ったのでした。


2012年5月13日

小野不由美の月の影 影の海を読みました。 十二国記というファンタジー連作小説の1冊目でした。
日本の普通の女子高校生中嶋陽子は、高校に突然現れたケイキという男に連れ去られ、妖魔が跋扈する古代中国のような巧国に来てしまいます。 ケイキが陽子に預けたのは水禺刀という一振りの剣と鞘のみで、ケイキはいなくなってしまいます。
巧国では日本から来た陽子は望まれざる客なのでした。 妖魔におそわれながら、役人の目を逃れながら、陽子は日本から来た人間を受け入れてくれるという雁国を目指すのでしたが...
陽子を助けてくれることになる半人半鼠の楽俊がいい味をだしています。 この巻では陽子が苦難の末に慶王になるところで終わっているので、続編を読んでみたいと思ったのでした。


2012年5月9日

宮部みゆきの小暮写眞館を読みました。
花ちゃんこと花菱英一は高校2年生、ちょっと変わっている両親と年の離れた弟と暮らしています。 花菱父は商店街に残っていた小暮写眞館を買って、家族そろってそこに住むことにします。 ある日、英一は不思議な写真を押しつけられて、その写真の謎解きをすることになるのでした。
高校の仲間たちと一緒に写真の謎解きをしていく中で、英一は普通の人間の弱さや、正義を振りかざすことで他人を傷つけること、そして人々の暖かさを知っていくのでした。
英一の弟ピカ、英一の友人のテンコこと店子力、コゲパンこと寺内千春、のっぽの橋口、不動産屋の無愛想な事務員垣本順子といった魅力的な登場人物たちが英一の周りでいろいろな事件にからんでいきます。 それに小暮写眞館の主人だった小暮さん、小さい頃に病気で亡くなってしまった英一の妹風子の話題が絡んで物語が語られていきます。
普通の人たちでも、いろいろな悩みやトラウマをかかえています。 そして、それでも強く生きていくんです、という力強いメッセージが心地よい物語でした。


2012年5月1日

伊集院静のいねむり先生を読みました。
著者は結婚したばかりの妻を亡くしてしまい、精神的に疲れてギャンブル依存、アルコール依存の状態になっていしまっていました。 そこに現れたいねむり先生阿佐田哲也との交流で心の傷も癒されていくのでした。
阿佐田哲也は「彼には八方美人の性格があり、だれにも『自分が一番愛されている』と感じさせた」という性格だったようで、それが伊集院静には良い方向に作用したようです。
本を読んだkonnokの感想としては、阿佐田哲也はギャンブル依存でドラッグ等も使用しているということで、あまり良い印象を受けませんでした。


2012年4月26日

小路幸也のオール・マイ・ラビング(東京バンドワゴン)を読みました。 一昔前のホームドラマ東京バンドワゴンの5クール目でした。
今回も東京バンドワゴンにかかわる魅力的な登場人物たちがドラマを演じていきます。 登場人物が多くなってきたためか、謎解きは少なめに、登場人物たちの相互のからみが多めになってきたような気がします。
ちょっとマンネリ気味かな、とは思いますが、それでも安心して観ていられるホームドラマなのでした。


2012年4月25日

本多孝好の正義のミカタを読みました。
高校では筋金入りのいじめられっ子だった蓮見亮太は、何とか入学することができた二流大学で新しい生活を始めたのでした。 ひょんなことから、正義の味方研究部という奇妙な部に入部してしまった亮太は、部の仲間たちと一緒に正義の味方活動をするのでした。
仲間といろいろな事件にかかわっていく中で、亮太も自分の生き方を見つけていくのでした。 自分に正直に生きていくと言うことがテーマの青春小説でした。


2012年4月22日

近藤麻理恵の人生がときめく片づけの魔法を読みました。 自分がときめかないアイテムを捨てて、部屋を片付けてときめくものだけに囲まれて生活しましょう、というテーマの本でした。
昔読んで納得した捨てる技術も紹介されていて、そのとおり、と思いながら読みました。
そのアイテムに愛情を注げば、そのアイテムも愛情を返してくれる、という考え方が気に入りました。 この人の主張で面白いと思ったのは、自分の直感(そのアイテムにさわってみてときめくか、ときめかないか)を大事にしましょう、と書いてあったことです。 これはリチャード・ワイズマンの運のいい人の法則に書かれていた、自分の直感を信じなさい、という主張とも通じるところがあると思いました。
タグを外していない服は「うちの子」ではない、という主張はちょっと耳が痛いと思いました。 私はボードゲームが好きで結構買い集めていますが、ゲーム会で遊んでもらったときに面白いと思ったゲームを買うようにしているので、買ったままでラップを外していないものもたくさんあります。 ああ、そういうゲームたちはラップを破ってもらうのを待っているんだなあ、と思ったのでした。


2012年4月20日

東川篤哉の謎解きはディナーのあとで2を読みました。 謎解きはディナーのあとでの続編でした。
軽めの謎解きと執事とお嬢様の掛け合いが楽しめました。
テレビドラマを見た後なので、登場人物が櫻井翔と北川景子に思えてしまうのは、仕方がないですね。


2012年4月18日

樋口有介のピースを読みました。
秩父の片田舎で起きた残忍な連続殺人事件。死体はノコギリでばらばらに切り離されているのでした。 その被害者の一人がアルバイトをしていたスナックを舞台に物語が語られていきます。
こんな凄惨な事件を題材にしているのに、なぜ題名がピースで表紙がピースをしている子供たちなのか、ということも物語が進んでいくうちに明確になっていきます。
物語が一応解決した後に、最後に仮定形で事件の真相が提示されます。 その真相を読むと、何となく違和感を感じていた事柄が納得できるのでした。
説明されていない背景もありますが、それぞれの登場人物が人間くさく描かれていたので、面白く読むことができました。


2012年4月14日

ジャレド・ダイアモンドの銃・病原菌・鉄を読みました。
現在の世界でなぜヨーロッパの白人が世界を支配しているのか。 なぜ世界を支配しているのがアフリカ人やニューギニア人やアメリカ先住民ではないのか、ということを解説した世界史の解説書でした。
ヨーロッパの白人が世界を支配できたのは農業による食料生産、家畜による労働力・機動力の確保により、技術力を高め、帝国を築くことができたためである。 そしてヨーロッパの白人が農業や畜産をすることができたのは、東西に長いユーラシア大陸に住んでいて、食料生産に向いた在来種の植物や、家畜に向いた野生の動物がいたためである、と解説されていました。 決してヨーロッパの白人が他の地域の民族より知性的に優れているからではない、と解説されていました。 すっきりと整合性がとれていて納得できる面白い理論だと思いました。
家畜と一緒に生活していた民族は、家畜から病原菌をうつされてしまい、大きな疫病の流行で大量の人間が死んでしまっていますが、生き残った人たちは病原菌に対する耐性ができています。 ヨーロッパから来た白人は銃や馬による攻撃でアメリカ先住民を殺したわけですが、ヨーロッパから白人が持ち込んだ病原菌がそれに耐性のないアメリカの先住民を殺した人数の方がずっと多い、という解説は、貴志祐介の新世界よりを読んだときの薄気味悪さを連想してしまいました。
日本の出生率は現在とても低くなっていますが、100年後200年後の世界を考えたときに日本人という民族が残っているんだろうか、と遠い目で考えてしまいました。


2012年4月10日

有川浩の三匹のおっさん ふたたびを読みました。 定年を迎えた剣道家キヨ、店を息子に譲った柔道家シゲ、年の離れた娘と二人暮らしの機械屋ノリという還暦トリオが活躍する三匹のおっさんの続編でした。
前作ではキヨの息子夫婦、つまり孫の祐希の両親がたよりなく描かれていたのでしたが、今回は夫婦とも好意的に描かれていたので安心しました。 第1章は祐希の母親貴子のパートの顛末が描かれ、第5章では祐希の父親健児がお祭りの開催に尽力します。
今回はノリの再婚話がもちあがり、父娘二人で暮らしてきた娘の早苗は複雑な気持ちになるのでした。 そして祐希が早苗を力づけることになるのでした。
描かれているテーマは、万引き、不良中学生、ゴミの不法投棄と現在の日本で問題となっているものでした。 まあ、読んでいて一番カチンと来るのは、自分が悪いと言うことを指摘されたときに居直る輩なのでしたが。
最後には祐希も早苗と同じ大学に入学できることになって、よかった、よかった。
植物図鑑のサイドストーリーの短編がおまけでついていたのも、ちょっと嬉しいのでした。


2012年4月5日

小路幸也のブロードアレイ・ミュージアムを読みました。
古き良き時代のブロードウェイを舞台にした特別な博物館に収蔵されている収蔵品にからんで起きる事件を魅力的な登場人物たちが解決していくという物語でした。
この物語の魅力はかわいいエレベーターガールの少女フェイとミュージアムのキュレーターたちの事件解決に向けた活躍なので、事件があっというまに解決してしまうのもご愛敬です。


2012年3月30日

角田光代の八日目の蝉を読みました。
不倫相手に堕胎をさせられてしまった女性が、その男の妻が出産した赤ん坊を誘拐して逃げるという物語でした。 1章では赤ん坊を誘拐して逃げる女性がいろいろな場所に隠れながら警察の目を逃れて逃避行を続ける様子が描かれます。 2章では、ドキュメンタリータッチで事件のその後と赤ん坊が成長して若い女性になってからの行動が描かれます。
登場する男性たちが無責任で逃げることしか考えていないのに比べて、女性たちは逆境に立ち向かって強く生きているように描かれているのが印象的でした。


2012年3月27日

群ようこのれんげ荘を読みました。
広告代理店の多忙な仕事生活、女性の同僚との軋轢、世間体を気にする自分勝手な母親の干渉、などから逃げるために、キョウコは会社を辞めて自由な生活を始めます。 収入の道もないので、家賃の安いぼろアパートのれんげ荘に居を構えたキョウコは、梅雨時にはなめくじと格闘し、夏には蚊の大群から逃れ、冬にはすきま風に震えながら、自由でのんびりした生活を始めるのでした。
40代半ばの独身女性が会社や家族のしがらみを逃れてのんびりと生活する、ということが淡々と物語られていきます。 konnokはまだまだそういう境地にはなりませんが、あと数年で定年なので、そろそろ考えておかないといけないなあ、と思いながら読んだのでした。


2012年3月24日

本多孝好のWILLを読みました。 MOMENTの姉妹編で、MOMENTに登場するいつも黒い服を着ている森野が主人公の物語でした。
11年前に交通事故で突然両親を亡くし、家業の葬儀屋を継いだ森野のところに持ち込まれる死者からのメッセージ。 それを解きほぐすことによって残されたものたちの死者への思いも落ち着くべきところに落ち着いていくのでした。
そして、それは森野自身がかかえる両親との別離を自分で納得することでもあるのでした。 森野が両親との別離を受け入れることができたとき、MOMENTの主人公神田に心を開くことができるのでした。


2012年3月19日

リチャード・ワイズマンの運のいい人の法則を読みました。
自分は運がいいと思っている人と運が悪いと思っている人を心理学的に分析して、運がいい人になるための法則を解説した解説書でした。
分析の結果として、運を鍛える四つの法則として、 1.チャンスを最大限に広げる 2.虫の知らせを聞き逃さない 3.幸運を期待する 4.不運を幸運に変える という法則が解説されています。
それぞれの法則は納得できたので、解説されている幸運のレッスンを実践してみようかな、と思ってしまいました。 まあ、社交性を高めたり、新しいことに挑戦したりするのは、ちょっと難しいかもしれないですが。
ところで、うちのカミさんは結構この運のいい人の法則にあっているような気がするのが不思議です。


2012年3月16日

米村圭伍の退屈姫君伝を読みました。
五十万石の磐内藩藩主の末娘めだか姫は美貌に恵まれているうえに、機転が利き、生来のいたずら好きです。 このめだか姫が二万五千石の風見藩にお輿入れしたところから物語は始まります。
参勤交代で藩主が地元に戻ってしまった後、めだか姫は江戸上屋敷の留守を預かっていたのですが、退屈しのぎに江戸の町に出かけて騒動に巻き込まれてしまうのでした。
めだか姫に、藩主の弟直光、くのいちのお仙、幕府隠密の倉地、長屋の娘お糸、それに田沼意次までが登場して、磐内藩と風見藩の密約をめぐる騒動が始まるのでした。
めだか姫のお姫様らしい言動が魅力的な物語でした。 そうそう、飼い猫のネコの名前がココというエピソードが面白かったので、うちの猫の名前もそういう付け方をしようかな、とちょっと考えてしまいました。


2012年3月13日

恩田陸のいのちのパレードを読みました。 恩田陸のきらめくイメージが表現された短編集でした。
地面から石の大きな手が生えてくる不思議な村、自分の考えていることが実体化してしまう兄妹たちのドタバタ物語。 滅んでしまった王国を乗せて永久に環状線を回り続ける大きな列車、のどかな国境警備隊の物語。 巨大なカタツムリがやってくる幻想的な村、すごろくで進む村に集まってくる少女たちの物語。
このようなイメージの奔流が恩田陸の物語の力なんだろうな、と思いました。


2012年3月7日

沼田まほかるの彼女がその名を知らない鳥たちを読みました。 8年前に別れた黒崎を忘れられない十和子は、下品で貧相な陣治と暮らしています。 幼い頃の出来事や、黒崎からされたひどい仕打ちによるトラウマをかかえて、十和子は現実と妄想のはざまに生きています。
神経症の女性の生活を、その女性自身の側から描く描写の的確さは、沼田まほかるの真骨頂だと思います。 読んでいて気持ちが悪くなるような描写なのに、自分もどこかにそのような感覚を持っているかもしれないと思わせる語り口がすごいと思います。
エンディングで、腐臭のする汚泥のなかに光の加減で美しい珠があるような幻が見えるのが、不思議な感じです。


2012年3月5日

山本ケイイチの仕事ができる人はなぜ筋トレをするのかを読みました。 会社の経営者や能力の高いビジネスパーソンは、筋肉トレーニングにお金と時間をかけている。 仕事ができる人はトレーニングをしても優秀である、と言う主張の筋トレの解説書でした。
筋肉を鍛えておくと、ビジネスでの判断や仕事上の行動も効果的にできるようになる、身体感覚を磨くことによって危機を察知することができるようになる、という主張は確かに当たっているかな、と思いました。
トレーニングが成功する人は、目的が明確であり、忍耐力があり、計画性があり、コミュニケーション能力があり、仕組み化がうまい、と言う特徴がある。 従って、仕事ができる人はトレーニングが成功する可能性が高い、と主張されています。
私のカミさんと長男はジムでのトレーニングを続けているので、私も始めてみようかな、と思ったのですが、50代以降にトレーニングを始めても効果が薄い、と書いてあったので、ちょっと残念でした。 まあ、トレーニングの目的は「続けること」、QOL(Quarlity of Life)を向上することである、と言うことなので、ちょっと考えてみようかなと思い始めています。


2012年3月2日

杉浦日向子の隠居の日向ぼっこを読みました。 日向子(ひなこ)だから、日向ぼっこなんですね。
江戸時代から昭和にかけて使われていた道具たちを四季折々の江戸の風物を背景に描いたエッセイ集でした。 今は使われなくなった道具が多く登場しますが、私が子供の頃はまだ使われていた道具もあり、懐かしく感じました。 はさみこまれている挿絵も風情があっていい感じでした。


2012年2月29日

夏海公司のなれる!SE6を読みました。 楽々実現?サイドビジネスという副題のついた、なれる!SEシリーズの6冊目です。
サービス残業、徹夜は常識・土日も出勤というブラック企業に就職した桜坂工兵が主人公のSE残酷物語でした。 今巻は5つの短編が収録されていて、今までの登場人物たちのいろいろなエピソードが描かれています。
楽々実現?サイドビジネスという物語は工兵がゼミの同窓生(美少女!)から簡単な仕事を頼まれるところから話が始まります。 その仕事を受けた工兵は、簡単に請けた仕事がどのような結果になるかということを身をもって知るのでした。
私も好意で友人のPCの故障修理をしてあげたりしていますが、注意しないといけないなあ、と思ったのでした。


2012年2月28日

宮部みゆきの名もなき毒を読みました。 誰かに登場した杉村三郎を主人公に、普通の人の中にある「毒」が描かれていきます。
今多コンツェルンの会長の娘婿で、社内報編集部に勤務する杉村三郎は、アルバイトとして採用した原田いずみの行動に悩まされています。 原田いずみは履歴書を詐称してアルバイトに採用され、その後、トラブルメーカーの本性をむき出しにするのでした。 自分ではまともに作業が出来ないくせに、他人の所為にして言い逃れる、嘘をついて同僚たちを混乱に陥れる、意見した上司をストーカーと偽って警察に訴える。
三郎は原田いずみを解雇するのですが、その後、彼女の逆恨みのターゲットになってしまいます。
この事件と、コンビニの飲み物に毒物を仕掛けて無差別に殺人を謀るという事件がからみあって、物語が語られていきます。
後味が悪い物語ですが、最近の世相では、原田いずみのような人が増えてきているような気がします。 人は誰でも心の中に「毒」を隠し持っているものですが、昔は大人たちの知恵でその「毒」が外に現れないようになっていたような気がします。 最近は自己表現が重要視され、自己主張が推奨され、契約や論理的思考でたたきのめすことが正義になったので、「毒」が外に現れやすくなっているのではないか、と思いました。


2012年2月23日

恩田陸の木洩れ日に泳ぐ魚を読みました。
引っ越しの荷物が運び出された後で男と女が会話をしています。 その会話は交互に男の側からと女の側からの視点で物語られていきます。 1年前の登山の記憶、二人の昔の記憶、それらが会話の中でだんだん明確になるに従い、二人の関係も揺らいできます。
そして、朝の光が差すとき頃に現れる真実とは、何なのか。 ただ二人が会話をしているだけなのに、だんだん隠された真実が現れてくるという構成は面白いと思いました。


2012年2月22日

山田詠美編のせつない話第2集を読みました。 「せつない」をテーマとしたオムニバス短編集でした。
14編の短編が収録されていますが、一番気に入ったのは、宮本輝の夜桜でした。 終わってしまおうとしている老いたカップルと、今始まったばかりの若いカップルのコントラストが心地よい短編でした。


2012年2月15日

三上延のビブリア古書堂の事件手帖2を読みました。 栞子さんと謎めく日常というサブタイトルがついている、ビブリア古書堂の事件手帖の続編でした。
北鎌倉駅のそばにあるビブリア古書堂の店主篠川栞子と、とあるいきさつで店員になった五浦大輔の物語でした。 栞子の妹文香、ビブリア古書堂に関わった小菅奈緒、せどり屋の志田といった賑やかな人物たちも登場して物語がすすみます。
この物語のテーマは古書とそれに関わる人たちの隠された謎ときです。 栞子は大輔に古書の解説をしながら、その古書に秘められた謎を解き明かしていきます。 本好きにはたまらない蘊蓄やエピソードが語られていて、読んでいて嬉しくなってしまいます。


2012年2月14日

誉田哲也の武士道エイティーンを読みました。 武士道シックスティーンの完結編でした。
今作では、磯山香織と甲本早苗の物語の他に、彼女たちを見守っている桐谷道場の桐谷師範、武具屋の辰じい、早苗の姉緑子、福岡の吉野先生といった人たちの物語も語られていきます。 彼女たちが武士道に目覚めて真っ直ぐに育っていくのも、周りの大人たちが見守ってくれているからなんだな、と感じました。
有川浩が後書きで彼女たちがどうして魅力的なのかを解説していて、その意見に納得しました。 武士道ナインティーンを待ちわびている、という有川浩の意見には大賛成なのでした。


2012年2月11日

誉田哲也のシンメトリーを読みました。 ストロベリーナイトの続編で、女性警部補の姫川玲子が主人公の警察小説短編集でした。
玲子が現在の立場になるまでに経験した事件や先輩たちとの出会いなどが描かれています。 それぞれの短編で、玲子の一面が明らかにされていて、面白く読むことが出来ました。


2012年2月9日

有川浩の植物図鑑を読みました。
普通の女性がイケメンで性格の良い男性を拾って一緒に暮らすようになる、という女性にとっては夢のような設定の物語でした。 そしてその男性は植物についてとても詳しく、料理の腕も一流なのでした。
雑草という植物はない、全ての植物には名前がついている、ということで、道ばたに生えている草や川辺に生い茂っている草の料理の方法が解説されています。
もちろん、有川浩なのでラブコメの甘い甘い物語なのでしたが。
この人の巻末の解説を読んでいて、若い頃よく読んでいた新井素子と同じにおいがするなあ、と思いました。 それぞれの小説を書いたきっかけや思い入れが書かれていて、本編とはまた違った楽しみがあります。


2012年2月8日

三上延のビブリア古書堂の事件手帖を読みました。 栞子さんと奇妙な客人たちというサブタイトルがついている、北鎌倉駅のそばにあるビブリア古書堂の美人店主篠川栞子が主人公の物語でした。
栞子とひょんなことから関わってしまい、ビブリア古書堂の店員をすることになる五浦大輔の語りで物語が進んでいきます。 けがをしてしまって入院中の栞子の病室に大輔は古書を持ち込んで鑑定してもらうのですが、その鑑定のついでにその古書に関する謎解きが行われていきます。 そして、大輔にもビブリア古書堂にも関連する重大な事件が発生してしまうのでした。
他人と話すときは小心でおどおどしてしまう性格の栞子ですが、古書の鑑定を始めたり小説の解説をしたりする時には自信にあふれた態度に豹変します。 そして、やはり謎解きが鮮やかなので、栞子のファンになってしまいました。


2012年2月7日

恩田陸の不連続の世界を読みました。 いろいろな場所をテーマにしたトラベルミステリの連作でした。
悪魔を憐れむ歌という短編が心に残りました。 「セイレーン」の歌を聴くと船乗りがその歌に引き寄せられて遭難してしまう、という伝説から、聞くと死にたくなる歌がある、という謎が提示されます。 それを追いかけていくと、山の先祖の霊を祀る一族の話につながっていくのでした。 山には先祖の霊が祀られていて、山から吹き下ろしてくる風は先祖の想いなのだ、というテーマが気に入ったからかもしれません。


2012年2月6日

乾くるみのイニシエーション・ラブを読みました。 最後の2行は決して先に読まないように、という注意書きの書いてある小説でした。
物語は男女の恋物語なのですが、トリックを隠すためにちょっと曖昧に書いてある部分もあり、物語に現実感が感じられませんでした。 まあ、綺麗な女性から言い寄られる男性というシチュエーションでは、きっと女性の側になにか下心があるはずだ、という思い込みがあったことは否定できません。
最後の2行を読んだときに、女性が呼び誤ったのだと思ったのですが、読み直しても何が起きたのかわかりませんでした。 そこで、インターネットの解説サイトを見て、ふーん、そうだったの、と思ったのでした。 私は数式の証明のようなミステリーは嫌いなので、乾くるみに「それで、どこが面白いの?」とつっこみたくなりました。


2012年2月3日

誉田哲也のソウルケイジを読みました。 ストロベリーナイトの続編で、女性警部補の姫川玲子が主人公の警察小説でした。
今回は、保険金詐欺事件に絡んだ殺人事件を舞台に玲子の活躍が描かれていきます。 玲子の捜査は直感的な勘をもとに進めるので、事実を積み上げる捜査を行う同僚の日下とはそりが合わないのでした。 主人公の姫川玲子、同僚の日下、玲子に言い寄ってくる井岡、一応恋人状態?の菊田、上司の今泉警部と個性豊かな面々が事件を解決しています。
物語の展開もスピーディで犯罪のトリックもそれなりに面白く読むことが出来ました。


2012年1月31日

新潮社編のStory Sellerを読みました。 面白いお話、売ります。という副題のアンソロジーでした。 先にStory Seller 2を読んで面白かったので、Story Sellerも読んでみることにしました。
有川浩のストーリーセラーは、小説家になってしまった女性が主人公のラブストーリーでした。 夫のすすめで小説家になったヒロインは、自分の親戚との軋轢から精神疾患にかかってしまうのでした。 でも、その病気にもかかわらず、彼女は夫のために小説を書き続けるのでした。
米澤穂信の玉野五十鈴の誉れは、明治大正の物語のはずなのですが、近未来の女性型アンドロイドの物語のように思えてしまいました。 そして、脈略もなく手塚治虫の火の鳥に登場するロビタの物語を思い出したのでした。
道尾秀介の光の箱は、クリスマスを題材にしたファンタジーでした。 最初にある悲しい物語が語られ、その次にそれがサンタクロースの導きによって、もうひとつの物語として語られるのでした。
その他の短編もそれぞれ面白く、読み応えのあるアンソロジーでした。


2012年1月24日

三崎亜記のコロヨシ!!を読みました。
日常の中に非日常を描く三崎亜記の小説ですが、今作はスポーツ「掃除」がテーマです。 古来、賓客を迎えたときに掃除が出来ていなかったため、賓客の前で舞をしながら掃除をした、という故事から派生したスポーツ「掃除」。 羽子板の羽のような形の複数の「塵芥」を、薙刀のような形の「長物」で巻き上げて操り、その動きの美しさを競う競技。
「掃除」に魅せられた高校生の主人公「樹」は、掃除部の先輩たちや掃除に関わる人たちとの交流によって、人間的に成長していくのでした。
私はスポーツは出来ないので、スポーツを題材にした小説を読んでも、ふーん、そんなものなのか、と思いながら読んでいます。 コロヨシ!!も同じ感覚で読んでしまったのですが、よく考えると荒唐無稽な設定じゃないのかなあ、と思ってしまいます。
三崎亜記の小説らしく、国家体制側からの活動制限も息苦しく描かれていて、現代の日本に生まれて良かったなあと改めて思います。
登場人物の中の訪先輩が訳のわからない格言を言うのですが、その格言集がほしくなります。


2012年1月18日

新潮社編のStory Seller 2を読みました。 面白いお話、売ります。という副題のアンソロジーでした。 伊坂幸太郎、有川浩、本多孝好といった最近気に入って読んでいる作家の短編が収録されています。
伊坂幸太郎の合コンの話は、ありふれた日常の出来事も、実は関わった人たちの思惑が交錯していて、見る角度を変えると万華鏡のようなきらめきが隠れている、というテーマの小説でした。
有川浩のヒトモドキは、サイコホラーでした。 マスコミに取り上げられることもあるゴミ屋敷の住人が自分の親戚だったら、というおぞましいテーマで書かれた小説でした。
その他の短編もそれぞれピリッと締まっていて、読み応えのあるアンソロジーでした。


2012年1月13日

有川浩のキケンを読みました。 成南電気工科大学・機械制御研究部、略称(機研)の活躍を描いた青春小説でした。
機研の伝説的黄金時代、部長上野、副部長大神、そして元山、池谷をはじめとする一回生たちが繰り広げる幾多の事件が物語られていきます。 小学生のときに爆薬で天井を抜こうとして、親からプレハブに移されてしまったというエピソードを持つ上野の破天荒な行動に振り回されながら、一回生たちはいつの間にかそれに慣れてしまうのでした。 そして大学祭での「らあめんキケン」にかけた元山と他の部員たちの情熱、「ロボット相撲大会」での池谷の活躍、感動モノです。
後書きでの、老いも若きも男子はみんな(機研)を持っている、という言葉で私も昔マイクロマウスに出たときのことを思い出したのでした。 またまた有川浩の物語を楽しませてもらいました。


2012年1月11日

沼田まほかるの九月が永遠に続けばを読みました。
主人公の佐知子は41歳の離婚歴のある女性で、息子の文彦と一緒に暮らしています。 ところが、ある日の夜、文彦がゴミ袋を捨てにちょっと外に出たまま失踪してしまいます。
佐知子は文彦の学校の友達や、以前の夫雄一郎、雄一郎の現在の妻亜佐実、その娘冬子、を訪ねて文彦の消息を探ろうとします。 亜佐実は若い頃に凄惨な暴力事件の被害者になったために深い心の傷を負っていたり、佐知子は冬子のボーイフレンド犀田と不倫をしていたり、文彦と冬子が佐知子に隠れて連絡を取っていたり、と複雑にからんだ人間関係のしがらみで登場人物たちは愛憎の迷路の中に迷い込んでいくのでした。
物語は文彦の失踪の後、犀田が何者かにホームから突き落とされて事故死し、冬子が睡眠薬自殺をして、そして亜佐実は精神を病み現実世界から逃避してしまう、という展開となってしまいます。
凄惨な事件をテーマとしてはいますが、登場人物たちはみんなよく生きようとしています。 この物語のテーマは失われてしまったものに対する「祈り」なのかな、と思いました。
佐和子と文彦の隣室に住んでいる、おせっかいな服部とやさしいナズナの父娘がいい味を出していて、この物語の中でのお気に入りです。


2012年1月5日

畠中恵のアイスクリン強しを読みました。
江戸時代が終わり明治の世の中になって20年、洋菓子職人の皆川真次郎は風琴屋という洋菓子店を開店します。 開店とは言っても店売りはできておらず、もっぱら注文を受けて洋菓子を作ってパーティー会場に納めるという仕事をしています。 皆川真次郎は旗本の跡取りなのですが、小さい頃に親が亡くなってしまい、外国人居留地で育ったという身の上なのでした。
その真次郎に、成金貿易商小泉琢磨、その一人娘で幼なじみの沙羅、そして巡査になった旗本の跡取りたちの集まり若様組がからんで賑やかな物語になっています。
甘い洋菓子と真次郎、沙羅、若様組をめぐる事件や謎解きが当時の世相や風俗を背景に物語られていきます。 真次郎と沙羅の関係はこれからどうなるのだろうか、と期待してしまうのでした。


2012年1月1日

今年も、面白そうな本を探して読んでいきたいと思います。 そしてなるべく本を選ぶときに参考になるようなコメントを記録していきたいと思います。 どうぞよろしくお願いいたします。




2011年に読んだ本の感想