2010年に読んだ本の感想


2010年12月31日

日比生典成のめたもる。を読みました。
いろいろなものに化けることの出来るおふだを狐神のコンからもらった人たちの短編が3つと狐神コン自身の短編からなる短編集でした。
短編の主人公たちはおふだを使って猫や犬に変身します。 そして、犬や猫の立場から観察すると、話をしているだけでは分からないことがいろいろ分かってくるのでした。 登場人物たちの気持ちのすれ違いが、おふだのおかげで解消していくのでした。
ハッピーエンド過ぎなんじゃない、とツッコミたくなる物語たちでしたが、軽い読み物としては楽しめました。


2010年12月27日

百田尚樹の輝く夜を読みました。
誠実に生きているんだけど幸せから見捨てられた女性たちに訪れる奇跡を描いた5つの短編が収録されています。 クリスマスがテーマになっていて、街の中のジングルベルを聞きながら読むことが出来ました。
一番気に入った物語は第五話の「サンタクロース」でした。 病気で両親を失った女性が、婚約者も事故で失ってしまい、しかもその婚約者の子供を宿していることに気づいたのでした。 彼女が失望のうちに街をさまよっていると、教会の前にたどり着きました。
そこの牧師さんは、「私の母は亡くなる前に言いました。あなたがずっと年老いたとき、クリスマスの日に人生に絶望した女性がやってくるでしょう。その人を救いなさい」と話をしてくれたのでした。 そしてその女性は生きる希望をまた持つことが出来たのですが...


2010年12月23日

畑中恵のいっちばんを読みました。 江戸時代の妖しが活躍するしゃばけシリーズ7冊目です。 今回も大妖の皮衣を祖母に持つ病弱な若だんなが活躍します。
今回印象に残ったのは、紅白粉(おしろい)問屋の娘お雛のエピソードでした。 お雛は前作までは白粉を顔かたちが分からないくらいにべた塗りして登場していたのですが、自分の親の問屋の商いを立て直すために白粉をやめて売れるための方策を考えます。
幼なじみの菓子屋の栄吉も、奉公に出てお菓子作りの修行をしていますが、相変わらず才能が無くあんこもまともに作れません。 自分は本当に菓子屋になれるのだろうか、と悩み始めるのでした。
いままでは子供だった主人公一太郎や栄吉、お雛などがだんだん成長して物語に深みが出てきました。
後書きは畑中恵と高橋留美子の対談でしたが、これも面白く読みました。


2010年12月17日

浅田次郎の終わらざる夏を読みました。 日本が昭和20年8月15日にポツダム宣言を受諾した後に、千島列島の先のロシア国境にある占守島(シュムシュ島)で起こったロシアと日本の戦闘を題材にした小説でした。
その戦闘に関わることになってしまった人たちの1人ひとりの召集までの経緯や召集された後の行動が描かれていきます。 その中でも通訳として召集された翻訳者、そしてその妻と子供の物語が心に残りました。 彼が召集されなければ成し遂げられたはずの仕事は、妻や子供たちの想いもむなしく、最果ての島に散ってしまったのでした。
このような例は無数にあったんだろうなあ、この戦争はいったい何だったんだろうなあ、と考えさせられました。


2010年12月3日

万城目学のホルモー六景を読みました。
京都を舞台にした鴨川ホルモーの外伝にあたる6つの短編が収録されています。
京都の町で鬼たちを使役して戦う「ホルモー」にかかわってしまった、いろいろな登場人物たちのエピソードが描かれています。 鴨川ホルモー本編に比べると、それぞれ風合いの違う物語たちで、6編目の長持の恋などはほっとする物語になっているのが逆に不思議な感じでした。
とは言え、今回も万城目学のほら話を満喫しました。


2010年11月30日

吉川英治の三国志(五)を読みました。
続けて、出師の巻、五丈原の巻を読みました。 関羽が孤立無援の中で没し、曹操も没し、さらに劉備も没してしまい、蜀の命運は諸葛孔明の双肩にかかってしまいます。 蜀を永続させるためにはどうすればいいのか、孔明は考えるのでした。
諸葛孔明が物語の主人公になってからは三国志も面白く読みました。 諸葛孔明は傑出したプロジェクトマネージャですが、人材に恵まれず成果を上げようと仕事に没頭するあまり、過労で亡くなってしまうという物語が悲しいですね。
それ以降の戦の作戦に大きな影響を与えたという事も含めて、諸葛孔明という人が時代をこえて人々に愛されている理由が納得できました。
この物語を通して一番印象に残った登場人物は孔明以外ではやはり関羽でしょうか。 天性の武勇を持ち、玄徳と桃園の契りをした後はその約束を違えず、最後まで守り通した、というところが気に入りました。


2010年11月22日

吉川英治の三国志(四)を読みました。
続けて、望蜀の巻、図南の巻を読みました。 劉備玄徳が蜀の国を奪い取ることにより、蜀の劉備、魏の曹操、呉の孫権が並び立ち、後漢の中国における三国志の構図が完成しました。
とは言え、三国の危ういバランスの上にたくさんの武将が互いに競い合いながら血で血を洗う戦いが続いていくのでした。 孔明が登場したところはちょっと面白いと思いましたが、また戦争の場面が続くと飽きてきてしまいます。
まあ、ここまで読んでしまったので、惰性でもいいから、最後まで読み切ってしまいましょう。


2010年11月11日

あさのあつこのThe Manzai 4、The Manzai 5、The Manzai 6を読みました。 The Manzaiシリーズは1〜3巻は以前読んでいたのですが、今回4〜6巻が出たので続けて読みました。
主人公の瀬田歩は自分では普通の中学生だと思っていますが、おばさんたちには気に入られています。 同級生の秋本貴史は漫才の相方になってほしいと歩に迫ってきます。 歩は表面上は拒否しているのですが、いつの間にかペースに乗せられて漫才の相方をしてしまうのでした。
そして、貴史にぞっこんの美少女萩本恵菜に、歩が一目惚れしてしまったことから、奇妙な三角関係の中で物語が進んでいきます。
貴史と歩が文化祭で演じた漫才(ロミオとジュリエット)のファンが町内にたくさんいて、二人はロミジュリと呼ばれているのですが、夏祭りや病院でのゲリラ漫才でまたファンが増えていくのでした。
漫才の小説なので、物語全体がボケとツッコミでにぎやかに語られていくので、あっという間に読み終えてしまいます。 とは言え、あさのあつこの小説らしく、それぞれの登場人物は密かな悩みを抱えているのでした。 主人公たちは中学生という設定に、自分が中学生の頃はこんなにいろんな事を考えていなかったなあ、と思ってしまいました。


2010年11月10日

有川浩の阪急電車を読みました。
阪急電車の今津線沿線の各駅が題名の連作短編集でした。 数組のカップルや祖母と孫などが登場して電車の中の出来事でつながっていきます。 読んでいるうちにだんだん心が温かくなってきて、読者を幸せにしてくれます。
阪急電車沿線は、幸せな出会いのカップルだけでなく、不幸な出来事に出会ってしまう人たちも描かれていますが、その人たちも暖かく包み込んでくれる街なのでした。 下町のような雰囲気の今津線沿線に住んでみたいなあ、と思わせるような物語でした。
ボーイフレンドが暴力を振るうことに悩んでいる少女が出てきて、そのボーイフレンドと別れることを決意するのですが、「それがうらやましくない程には不幸に慣れきっていなかったし、プライドも持っていた」という描写がいいと思いました。 世の中には、不幸に慣れきってしまってプライドも捨ててしまった人たちが多いよなあ、と思ったのでした。
とは言え、幸せなカップルが2組ほほえましく描かれていて、それが有川浩の魅力なのかな、と思ったのでした。


2010年11月8日

吉川英治の三国志(三)を読みました。
続けて、孔明の巻、赤壁の巻を読みました。 諸葛孔明が登場すると物語も俄然面白くなってきました。 曹操が袁紹を破って遼東を制圧したあと、魏の曹操と呉の孫権の間で戦略を巡らす劉備と孔明の活躍が描かれていきます。 呉が魏の水軍を破ることが出来れば、劉備にも勝機が見えてきます。 その結末は如何に、ということで三国志(四)に続くのでした。
次から次へ似たような名前の登場人物が現れて、討たれてしまったり殺されてしまったりします。 歴史書ですから仕方がないのですが、これらの名前を全部を覚えるのは難しいですね。


2010年11月2日

木下半太の悪夢のエレベーターを読みました。
エレベータに閉じ込められてしまった人たちのそれぞれの視点からの悪夢が描かれています。 トリックは面白かったし、最後のどんでん返しもそれなりに面白く読みましたが、登場人物たちが血の通った人間に感じられませんでした。
脚本家が書いた小説はいくつか読みましたが、どれも登場人物の人間の描き込みがちょっと不足していると感じます。 ああ、この人ならこういう状況に置かれたらそのような行動を取るだろうなあ、という納得感が不足しているのです。 番組になるときには監督や役者がそこをフォローするので、脚本家はシナリオがきっちり出来ていればそれでいいからなのかなあ、と思ったりしています。


2010年11月1日

吉川英治の三国志(二)を読みました。
続けて、草莽の巻、臣道の巻を読みました。 群雄割拠の古代中国で、曹操や袁紹、孫策などが覇を競います。
登場する武将たちが合戦や交渉で陣地を広げたり奪われたりする状況は、確かに戦略級のウォーゲームの材料としてはぴったりです。 武将たちのエピソードから、戦闘力、内政力、交渉力などのパラメータを当てはめれば、ゲームが作れるなあ、と思いました。
主人公の一人と思われる劉備玄徳はこの巻でも負け戦で命からがら逃げているばかりです。 そのうち義兄弟の関羽や張飛といっしょに活躍する舞台が用意されているのでしょうか。
曹操と関羽のエピソードは面白く読みましたが、やはり古代中国の人々の人生観と現在の日本に生きているkonnokの人生観は大きく違うんだなあ、と思いながら読んでいます。


2010年10月20日

桐野夏生の東京島を読みました。
普通の主婦清子が無人島に漂着し、後から漂着した男性たちや中国人たちを含めて、女性一人と男性30人で暮らすことになりました。 そして、無人島で原始人のような生活をしているうちに、清子のグロテスクな本性が現れてくるのでした。
登場人物の視点から語られる短編が集まって、無人島に漂着した人たちの物語が紡がれていくのでした。 清子は最初は女王のように振る舞っていたのですが、中国人たちと島を脱出しようとした企てが失敗に終わり、共同体からはじき出されて惨めな境遇になってしまいます。 その無人島から脱出しようと苦闘する共同体のメンバは少しずつ体調をくずし、心の病にかかっていくのでした。
エンディングはこの物語としてはふさわしいものですが、konnokとしては悪夢の始まりのように感じられました。 mixiで私と同世代の女性が「結末は意外に、ほっとする内容になっていますから」と感想を書いていましたが、それには同意できませんね。


2010年10月10日

石田衣良のリバース(REVERSE)を読みました。
インターネットのメール交換で出会った男女の物語でした。 メール交換の中で、千晶と秀紀は心を通わせていくのでした。
ところが、ネットの中では千晶は男性アキヒトを、秀紀は女性キリコを演じていたのでした。 この二人が実際に会おうということになってしまったところから、物語は急展開していきます。
千晶がばりばり仕事をしている女性で、秀紀は仕事はできるけどちょっと引っ込み思案な男性、という設定は現代の若者の実態を反映しているのでしょうか。 とは言え、物語の設定に同感できなかったので、この物語はあまり楽しめませんでした。


2010年10月8日

吉川英治の三国志(一)を読みました。
まずは、桃園の巻、群星の巻を読みました。 読んでみた感想としては、史実にそって事実が描かれていますが、登場人物たちの人物像がイマイチ思いうかばないと感じました。
登場人物がたくさんいるので覚えきれないし、聞いたことのない登場人物はそのうち殺されてしまうのだろうなあ、と思って読み進めていくとそのとおりだし。 と言うような話を、昨日一緒に出張した人に話をしたのですが、まあ、そういわずに最後まで読んでみてください、と言われたのでもう少し読み進めてみましょう。
主要な登場人物も何度か危ない目に遭っていて、もしそのとき殺されてしまったら主人公にはならなかったんだろうなあ、と思ってしまいました。


2010年10月1日

仁木英之の薄妃の恋を読みました。
僕僕先生の続編でした。 美少女の姿をした仙人僕僕と仙骨はないけど仙縁のある青年王弁の物語でした。 前作から5年後、蓬莱から戻った僕僕と、僕僕をずっと待っていた王弁はまた旅に出かけるのでした。 僕僕と王弁に天馬の吉良や皮だけの少女薄妃などが加わり、一緒に旅をしながら遭遇する事件を解決していきます。
僕僕がいろいろなパターンで王弁をからかい、王弁は一応憤慨して見せながら心の中では喜んでいる、というようすがほほえましく描かれています。
なぜかこの物語を読みながら、夏目雅子が三蔵法師を演じた西遊記を思い出しました。 美人の三蔵法師とそれに仕える孫悟空や猪八戒たちが唐の時代の中国を旅しながら、怪異や仙人たちが起こした事件を解決していくという構成が似ているんでしょうか。


2010年9月27日

森絵都のカラフルを読みました。
死んだはずの「僕」の魂が流されていると、目の前に現れた天使が言うには、あなたは抽選に当たったので、自分の過ちを返上するために、これから下界にいるだれかの体にホームステイして罪を償わなければなりません。 そして僕は真という男の子の体にホームステイすることになったのでした。
真という男の子は陰気ないじめられっ子で、両親も兄も見かけは優しそうなのですが、その実いろいろな隠し事をもっているのでした。 あこがれの女の子はお金をもらっておじさんとつきあっているし、真も覚えていない女の子につきまとわれるし、公園で不良学生に襲われるし、と、良いことは全くないのでした。
でも、絵を描くことは楽しいし、親しい友人も出来て真の生活も少しずつ良くなっていくのでした。 エンディングで「人生は数十年のホームステイだと思えばよい」と天使が示唆しますが、今この時に悩みを抱えている少年少女には応援歌となるかもしれません。
この物語の謎は、途中からきっとこういうオチだろうな、と思っていたのですが、そのとおりでした。 そう言うわかりやすさも含めていとおしい物語でした。
ところで、この物語のホームステイ先の男の子は真という名前ですが、弘でも悟でも孝でも良いから真はやめて欲しかった。 というのは、例えば「真の母親」と書くと「しんの母親」と読めてしまい、どこかに「仮の母親」がいるからこの母親は「真の母親」なのね、と読めてしまうのでした。 読んでいるときに、いつもこんな中断が入ってしまいイライラしました。


2010年9月23日

木地雅映子のマイナークラブハウスの恋わずらいを読みました。
学園コメディマイナークラブハウスへようこそシリーズの番外編でした。 5つの短編と後日談の構成で、有名私立大学の附属高校の、弱小文化部に所属する変人たちの恋物語がコメディタッチで描かれています。 今回は天野とぴりかの不思議な関係を中心に「恋」をテーマにした事件が起きます。 しかし、その物語の裏にはそれぞれの登場人物が抱える家庭事情や悩みが隠れているのでした。
高橋奈緒志郎のお母さん、徹子が登場する5つめの短編で「眩しい光の中に投げ込まれたような感じ」が描かれています。 私はいま、この時を充実して生きているという実感を持つことができているかなあ、と胸に手を当てて考えてしまいました。


2010年9月22日

石村博子のたった独りの引き揚げ隊を読みました。
コサックと日本人のハーフとして産まれ、日本の敗戦・ロシアの侵攻の時期に、一人だけでハルピンから錦州まで1000キロを引き揚げたビクトル古賀の半生を描いたノンフィクションでした。
普段は農民として暮らしていながら、招集がかかれば勇敢な騎馬軍団として駆けつけるというコサックの伝統の中でビクトルは育ったのでした。 コサックに伝わる荒野で生き延びる知恵を受け継いで、10歳のビクトルは1000キロを踏破したのでした。
しかし、コサックは歴史の中で迫害されて、ちりぢりになってしまい、コサックの伝統も失われてしまいました。 日本にいると実感がわきませんが、中国やロシアでは部族間の血で血を洗う争いがずっと続いているのですね。


2010年9月20日

石田衣良の非正規レジスタンスを読みました。
池袋西口公園物語の8冊目でした。 IWGPも8冊目になりました。
今回も池袋一のトラブルシューター、マコトがシングルマザーや非正規雇用者の苦境を救うために活躍します。
オペラ好きの首相が派遣労働を法制化してから最下層の労働者の勤務条件はひどく厳しくなってしまった。 そして、昔はそういう場合にセーフティネットになっていた「家」のシステムや地域のコミュニティは古くさいものとして解体されてしまい、それに替わるものは構築されていない。 という状況がダークな池袋という仮想の街を舞台に語られていきます。
そう言えば、オペラ好きの首相が政権を取っている時代に日本の借金も倍増したんだったなあ、と別のことを考えてしまいました。


2010年9月15日

内田樹の日本辺境論を読みました。
とても面白い日本論でした。
日本は中華圏の辺境として国が始まったので、外部の強者の体系的な思想を取り込むことに特化して進歩してきた。 外部に絶対的に正しいものがあり、それを取り込んで自分もそれに迎合する、という考え方が日本人を規定している。 常に外部の新しいものを取り込んでいかないと不安になる、そして日本人らしさを失うことなく外部の新しいものを取り込んでいくことができる、ということが日本人の本質である、という主張でした。
そのほかにも、日本人の学び方の効率の良さ、「機」の思想などが論じられていました。
日本語というのはやまと言葉に漢語やヨーロッパ系言語を外来語として追加・拡張した言葉であり、言語の中に表意文字と表音文字が混在する世界でもまれな言語である。 そしてそのことが、日本でマンガが発達する素地となっている、という主張が面白く感じました。


2010年9月15日

先日のブリッジ大会に参加するため車に乗せてもらっているときに、読書の話になりました。 徳川家康とか伊達政宗とか長編の歴史物を読んでいるという人から紹介されましたが、さすがにあまり長いものは手を出せないなあ、と思いながら聞いていました。
その話の中で、源氏物語や三国志の話題になったので、これらはkonnokも未読だったのでそのうち読んでみたいなあと思っていたのですが、何しろ長いので躊躇していたんです、と話しました。 すると、訳によって読みやすさが違うとのことで、おすすめは源氏物語は谷崎潤一郎訳、三国志は吉川英治の版が読みやすいとのことでした。
早速、インターネットでそれぞれ1冊目を注文しました。 1冊目を読んでみて読み続けることができそうなら、残りの巻を買おうかなと思っています。


2010年9月13日

木地雅映子のマイナークラブハウスは混線状態を読みました。
マイナークラブハウスへようこそシリーズの3巻目でした。
第3巻では、学園小説らしく登場人物たちの恋心が描かれています。 とは言え、この物語では恋の行方も一筋縄では行きません。
関連する登場人物たちの目線でマイナークラブハウスのメンバーたちの行動や気持ちがコミカルに描かれていきます。
畠山ぴりかの天真爛漫に見える行動と、その陰に隠れている深い暗闇のコントラストがまぶしい物語でした。


2010年9月8日

木地雅映子のマイナークラブハウスの森林生活を読みました。
マイナークラブハウスへようこその続編でした。
第2巻では、マイナークラブハウスの面々が合同合宿で天野清一郎の故郷を訪ねていく物語でした。 天野清一郎の故郷での破天荒な歓迎や福岡滝の恋心の行方などがコメディタッチで描かれています。
急な腹痛で、合同合宿に参加出来なくなってしまった畠山ぴりかはマイナークラブハウスに一人残されてしまい、たまたま訪ねてきた高橋奈緒志郎に助けられて、からくも生き延びるのでした。 いつもは着ぐるみを着て、ふざけているような会話しかしていない畠山ぴりかですが、その生い立ちや家族環境が明らかになってくると、そのけなげさに心をうたれてしまいます。
登場人物が結構多くて、思わぬところで関連していたりするので、翻訳のミステリのように最初に登場人物の一覧があるといいのになあ、と思ってしまいました。


2010年9月4日

木地雅映子のマイナークラブハウスへようこそを読みました。
学業優秀、スポーツ万能の有名私立大学の附属高校の、弱小文化部に所属する変人たちの物語でした。 演劇部で着ぐるみが大好きでいつも変な行動を繰り返す畠山ぴりか、服飾が得意で、性格が変わっているので女の子の友達ができないタイプの手芸部の福岡滝、のような登場人物たちがドタバタ喜劇を繰り広げます。
基本はコメディなのですが、登場人物はそれぞれ深刻な家庭事情や悩み事を持っていることがわかってきて、物語に深みが出てきます。
登場人物それぞれを主人公にした連作短編集という形で構成されていて、それぞれの章の名前が「福岡滝、珍妙なる友を得る縁」というふうに登場人物の名前と〜の縁というふうにつけられているのもいい感じです。 続編が出ているので、あわせて読んでみる予定です。


2010年8月30日

石田衣良の5年3組リョウタ組を読みました。
小学校5年生の担任の中道良太とその学級の生徒たちの物語でした。 単純で生徒思いの熱血漢の中道が、頭脳明晰で問題に冷静に対処できる染谷、年上の美人教師山岸、そして5年3組の生徒たちの助けを借りて学校内で起きてしまったいろいろな難題を解決していきます。
家族内の問題で生徒が教室を抜け出してしまう、教師間のいじめで若い教師が出社拒否になってしまう、生徒の兄が自宅に放火してしまう、クラス間の成績競争でクラス内が分裂してしまう、というような難題をテーマに中道リョウタと染谷の活躍が描かれています。
物語は面白く読んだのですが、石田衣良の物語としてはちょっとまとまりに欠けているという感じがしていました。 解説を読んだところ、この小説は新聞連載で書かれたとのことなので、確かに細かいところで整合性が取り切れていないのかもしれません。
とは言え、後書きの「子どもたちも、学校も、きっとだいじょうぶ」というメッセージに勇気づけられる人も多いのではないでしょうか。


2010年8月25日

伊坂幸太郎の砂漠を読みました。
学生時代を砂漠の中のオアシスに例えた青春小説でした。 大学を卒業すれば砂漠に出て行かなければならないけれど、それまでの期間は大切な仲間たちと一緒に過ごしていくのでした。
東堂、南、西嶋、北村に鳥井を加えた5人で、麻雀、恋愛、ホスト、空き巣狙い、超能力、通り魔、と盛りだくさんの学生生活が過ぎていくのでした。
唯我独尊・空気を読まない・猪突猛進の性格の西嶋が中心になって物語が語られていきます。 初めは鼻につく西嶋の性格にだんだん慣れてきて、そのうちいとおしく感じられてくるのが不思議です。
それ以外の仲間もそれぞれ独特の性格と能力を持っていて、それぞれのコントラストが映える物語でした。


2010年8月20日

森見登美彦の有頂天家族を読みました。
京都の街の天狗と狸のお話で、狸4人兄弟の3番目が主人公の物語でした。 狸がいろいろなものに化けたり、天狗が空を飛んだりする世界で、主人公の母狸や父狸、風変わりな兄弟たちが、宿敵になってしまった叔父や従兄弟たちと争いを続けます。
大正時代から続く金曜倶楽部という秘密結社では、忘年会に狸鍋を喰らうことが恒例になっていました。 狸にとっては一大事の事件ですが、主人公の父狸も以前金曜倶楽部の忘年会で狸鍋になってしまったのでした。
そして、今年の忘年会、叔父と従兄弟の陰謀により主人公と兄狸、母狸が金曜倶楽部に捕らえられてしまったのでした。 さて、絶体絶命の状況の中で物語はどのように展開していくのでしょうか。
主人公の母や兄弟たちだけでなく、天狗の赤玉先生や人間から天狗になった美女の弁天、そして主人公の従姉妹で元許嫁狸の海星など魅力的な登場人物たちが縦横無尽に活躍します。 風刺や諧謔がきいていて、面白く読めました。


2010年8月11日

上橋菜穂子の蒼路の旅人を読みました。
精霊の守り人シリーズの文庫最新刊でした。
海の向こうの大陸のタルシュ王国から攻撃されているため、サンガル王国の国王から新ヨゴ皇国へ援軍を求める使者がやってきました。 ところが、それとは別にサンガル王国のサルーナ姫からチャグム宛に援軍要請が罠であることをほのめかす密書が届きます。 そしてチャグムは援軍に同行してサンガル王国にむかうのでした。
強大なタルシュ王国が新ヨゴ皇国を降伏させて支配下に置こうとしているという状況の中で、皇太子であるチャグムは自分の国の民のためにどう行動すべきかを考えていくのでした。 精霊の卵を抱えてバルサと冒険していた頃から大きく成長したチャグムの自分の国を守ろうとする苦闘が始まります。
シリーズの前半ではバルサやチャグムたちの活躍が描かれていましたが、後半では大国からの侵略戦争を小国の連合が迎え撃つという物語になっていくのでしょうか。
物語の続きの文庫化が待ち遠しいですね。


2010年8月8日

百田尚樹の永遠の0を読みました。
主人公の零戦に搭乗していた祖父は「娘に会うために生きて帰る。妻と約束したから」と言っていたのでしたが、終戦の直前に特攻により戦死したのでした。
主人公と姉はひょんなことから、祖父がどのような人だったのかを知るために、祖父を知る人々に話を聞きに行きます。 話を聞いて浮かび上がってきたのは、操縦の腕は天才的なのに臆病者、この戦争では必ず生きて帰る、と心に決めて戦争に立ち向かう祖父の姿でした。 しかし、運命はその祖父に特攻での出撃を命じたのでした。
この小説で描かれているのは、太平洋戦争で戦った兵士たちの悲惨な状況、その状況でも果敢に戦った男たちの姿です。 それと対照的に軍部の上層部の腐敗は目に余るものがあります。 敵を知り己を知れば百戦して危うからず、とは孫子の言葉ですが、終戦間際では軍部の上層部は敵の戦力も知らなければ自軍の戦力の把握もできず、効果のない無茶な作戦を敢行していたのでした。
また、第九章でちょっとだけ描かれているマスコミに対する批判は納得しました。 なぜ、戦前戦争を賛美したマスコミが、戦後言を翻したことが批判されていないのか、と思ってしまいました。
私がこの本を読みながら思ったことは、私たちの50年後の子孫は現在の私たちをどのように考えるのだろうなあ、ということです。 子孫たちは私たちの世代に対してどう感じるのかな、私たちは子孫たちに恥ずかしくない生き方をしているのかな、と考えてしまいます。
まあ、50年後に日本という国がまだ存在しているのかどうか、存在していたとしてもその主要な民族が大和民族かどうかもわからないわけですが。 ただ、60年前の日本の若者たちはそのような事態を招かないために命をかけて戦ったのでした。


2010年7月29日

子安大輔の「お通し」はなぜ必ず出るのかを読みました。
ビジネスは飲食店に学べ、という副題のついた、飲食店をターゲットにしたビジネス書でした。 内容は飲食店に限らず他の業種でも参考になるような話題が盛りだくさんでした。
題名の「お通し」ですが、これは席料として飲食店が自動的に取るものであり、飲食店の経営には大きな意味があると説明されていました。 システム開発で言うと、保守料のようなものでしょうか。
ブームが来たときに、それが一時的なものなのか永続的に続くものなのかを見極めようという視点は私の仕事でも重要なことです。 まあ、なかなか見極めることが難しいのが世の中のですが。
本書の中で、飲食店が繁盛する条件が以下のように説明されています。 まず、前提条件として、「おいしいものを納得感ある価格で、心地よい雰囲気の中で食べられる」ことが基本です。 そして、それに加えてお客様が「少しのビックリ」を感じるように「少しのガッカリ」を感じさせないようにしていくことが重要です。
どのような業種でも該当する内容だなあ、と思いました。 特に、「少しのガッカリ」というのは飲食店側としては重要と思っていないにもかかわらず、お客様からは大きなマイナス点になることが多いので、注意する必要があります。 私の仕事の中でも、それほど重要ではないだろう、と判断した対応が結果的に大きなクレームに発展してしまうことも多々あるので。
面白いと思ったのは、飲食店関連でも、「起業ファンド」、「居抜き物件活用」、「廃棄物マネジメント」など関連するビジネスがいろいろ発掘できる、という解説でした。 私の本流の仕事関連でもいろいろアイデア勝負ができる余地があるのかもしれません。


2010年7月29日

香山リカのなぜ日本人は劣化したかを読みました。
現在の日本人は劣化している。 変化などと言うあいまいな言葉に逃げるのではなく、日本人が劣化していることを直視しよう、という主張の本でした。
日本語の読解力の劣化:日本語の文章を読んで、その内容を理解することができない。 考える力が劣化:情報を集めることはできるが、それらを統合して考えることができない。 他人の心を想像する力の劣化:自分の身勝手な主張を声高に言うだけで、他人の気持ちを思いやることができない。 モラルの劣化:常識や法律に反していても、自分さえ良ければよい、ばれなければよい、と考えて行動する。 体力も辛抱強さも劣化:じっと一つの姿勢を続けることができない、プレッシャーに弱く傷つきやすい。 などなど。
これに対する香山リカの対応は、まずは日本人が劣化しているという病識を持ちましょう、というものでした。 病識を持つとは、自分が劣化していることを認識して対策をしていく気持ちを持とうと言うことでした。
「自分が勝つことが一番大事」「他人に厳しく、自分に甘く」「弱肉強食はあたりまえ」と言う考え方に一度疑問を持ってみることが大事だと主張されています。 納得できるところが多く、いろいろ考えさせられました。


2010年7月28日

アンソロジーのI LOVE YOUを読みました。
恋愛をテーマにしたアンソロジーでした。 作家に伊坂幸太郎、石田衣良という名前があったので、買って読んでみました。
それぞれの作家の持ち味が良く出ていて面白く読みました。 伊坂幸太郎の透明ポーラーベアと石田衣良の魔法のボタンの2作品は読んだ後の後味も良く、それぞれの場面について想像がふくらんできます。 もう一人、本多孝好のSidewalk Talkも気に入ったので、そのうちこの人の別の作品も読んでみることにしましょう。


2010年7月22日

あさのあつこのガールズブルー2を読みました。
女子高生理穂とその友人たちの日常を描いたガールズブルーの続編でした。 理穂たちも高校3年生になり、将来の進路を決めなければなりません。 進路の心配や恋や友情がいっぱいの高校3年生の夏が過ぎていきます。
女子高校生たちのあけすけな会話の中に青春時代のピュアな気持ちが描かれていて楽しめます。 今回読んでみて、落ちこぼれ気味の女子高生たちの会話を描いているのに、日本語としての表現はしっかりしているのも好感が持てる理由の一つだなあ、と思いました。


2010年7月20日

上村佑の守護天使を読みました。
BookOffのおすすめの棚にあったので読んでみましたが、これはひどい。 コメントする気にもならない...


2010年7月15日

立松和平の遠雷を読みました。
昭和50年代の宇都宮で新興住宅地に囲まれながらトマト栽培をしている青年と彼とかかわる人たちを描いた小説でした。 私は永島敏行と石田えりが主演したATGの映画で観てとても気に入っている物語でしたが、立松和平が亡くなったこともあり、小説は今回初めて読みました。
壊れてしまった村のしきたりと向かい合いながら農業を続けて行こうとする泥臭い青年の行動が魅力的に感じられます。 お見合いで知り合ったガールフレンドの性的におおらかな考え方もいい感じです。 「毎日こんなことができるといいな」「できるわよ、結婚すれば」という会話も印象的でした。
とは言え、遠雷という表題が暗示するとおり、この二人を取り巻く環境はが大きく変わっていく兆しが見えているのでした。
konnok的には、女性が不治の病にかかってしまうお涙ちょうだいの物語より、泥臭くても主人公たちの生命力が感じられるこういう物語の方がずっと気に入っています。


2010年7月12日

畠中恵のつくもがみ貸しますを読みました。
畠中恵お得意の江戸時代の妖しが活躍する物語でした。 この物語で登場するつくもがみ(付喪神)は仲間同士では話をしますが、人間とは話をしません。 物語に登場する人間たち、出雲屋のお紅と清次はつくもがみたちを事件の現場に貸し出します。 そして帰ってきた彼らが話をしているのを聞いて事件を解決していくのでした。
お紅と清次、そして失踪したお紅の恋人がからんで物語がすすんでいきます。 しゃばけシリーズとは違い、人間とつくもがみたちが会話できないという設定なのがちょっとイマイチだと感じてしまいました。


2010年7月9日

村上春樹と松村映三の辺境・近境 写真篇を読みました。
村上春樹のコクのある文章と松村映三の味のある写真で構成された10年以上前の旅行記でした。 二人のコンビネーションが他の土地に旅行したときのわくわく感を醸し出していて、面白い読み物になっています。
ところで、村上春樹はSF作家である、という意見を聞きました。 確かに考えてみると私の気に入っている「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」や「アフターダーク」「海辺のカフカ」などはSFと言っても遜色のない構成になっています。 語り口が独特で読みやすいので、純文学系のように錯覚してしまいますが。
まあ、面白く読めて、何か考えさせられる小説であれば、どの分野であっても大歓迎な訳ですが。


2010年7月7日

万城目学のかのこちゃんとマドレーヌ夫人を読みました。
小学生1年生のかのこちゃんと猫のマドレーヌ夫人の物語でした。 猫のマドレーヌ夫人というと陶器で作られた猫の置物のようにすらっとした洋猫を連想しますが、普通のとら猫なのでした。
かのこちゃんと友達のすずちゃん、それにマドレーヌ夫人とその夫で柴犬!の玄三郎、そして猫の友人たちと物語が進んでいきます。 かのこちゃんは学校の宿題で自分の名前がついた理由を調べることになるのですが、お父さんに聞くと、「鹿に、こんど女の子が生まれたんだ、と話をしたら、それでは鹿の子模様にちなんで『かのこ』と命名するといいよ」と言われたからと答えが返ってきました。
こんな風に、万城目学らしいとんでもない設定が用意されているのですが、それらも含めて違和感なく物語を楽しむことができます。 語り口もよく、すっと物語が頭の中に入ってくるので、あっという間に読み終えてしまいました。


2010年7月5日

三浦しをんのまほろ駅前多田便利軒を読みました。
東京都外れのまほろ市で便利屋を営む多田のところに、高校時代の同級生の行天が転がり込んできます。 多田と行天はそれぞれバツイチで、彼らと個性豊かな顧客たちの依頼が原因で事件が発生します。
二人の高校生時代の事件や、離婚に至った経緯などもからんできて物語に深みがあります。 多田は行天の風変わりな性格に手を焼きながらも、憎めないので放り出せない、というのも味がある設定です。 物語には語られていない部分もあって、前後の事件から想像するという楽しみもあります。
エンディングでは、彼らの抱えているトラウマが少しは解消したかもしれない、と描かれているのがいい感じです。


2010年6月30日

あさのあつこの十二の嘘と十二の真実を読みました。
24編の連作のホラーの短編集でした。 互いに独立した二つの物語が交互に語られていき、最後に二つの物語がつながって一つの物語になるという構成でした。
あさのあつこというとバッテリーなどのように爽やかな少年たちのスポーツ小説が思い浮かびますが、このような女性のドロドロした怨念を描いたホラーも書くんだなあ、と思いました。
読んだ感想としては、語り口はそれなりに面白いと思いましたが、登場人物たちの描かれ方がワンパターンで特にひねりもなく、物語としてはイマイチだなあ、と感じました。 まあ、私がホラーを好きではない、というのも面白く感じない理由かもしれませんが。


2010年6月29日

ジェームス・D・ワトソンの二重らせんを読みました。
DNAモデルの発見者の一人であるワトソン博士がDNAの構造を発見するまでの過程を自ら語った物語でした。 現在では、DNAが二重らせん構造であることは誰でも知っている事実ですが、最初にその構造を解き明かした若者たちがどのようにしてこの発見を行ったのか、ということが書かれていました。
彼らは化学の実験に夢中になるだけでなく、女の子が招かれているパーティーに出席したり、自分の研究を認めてもらうために苦闘したり、と人間くさいことをいろいろやっているのでした。 とは言え、彼らはDNAの構造解明というレースに勝利した人たちであり、その才能だけでなく努力も大きかったのでした。
私は化学の知識はほとんどないので、技術的なところは理解できませんでしたが、読んでいてわくわくしてくる物語でした。


2010年6月28日

畠中恵と柴田ゆうのみぃつけたを読みました。
しゃばけシリーズの主人公、一太郎の幼い頃が舞台の絵本でした。
廻船問屋兼薬種問屋長崎屋の一人息子、一太郎がまだ幼い頃、やっぱり体が弱くて熱を出して一人で寝ていました。 ところが、天井のすみに小鬼たちが見えます。 この小鬼たちは鳴家(やなり)と言う妖怪でした。 一太郎は鳴家たちとおにごっこをして仲良くなったので、熱を出して一人で寝ていてもさびしくなくなったのでした。
普段は小説の表紙でしか見られない、柴田ゆうの描く鳴家たちがいっぱい登場する絵本でした。


2010年6月24日

西村淳の面白南極料理人を読みました。
夏でも零下30度、冬は零下70度になるという北極ドーム基地で生活する越冬隊9人の生活を面白おかしく書いた本でした。 面白く描かれていますが、一番近い昭和基地とも1000km離れた場所でいろいろな危険をくぐり抜けながら生活する、というのは結構メンタル的にも厳しいものがあると思いました。 そんな環境でも毎日宴会をやって激しい労働をしている登場人物たちはかなりタフな人たちなんだろうな、と思いました。
留守宅をまもっている愛妻みゆきちゃんと子供たちのことはちょっとだけしか描かれていませんが、そのエピソードから奥さんの愛情が読み取れます。
この本のメインディッシュはもちろん料理の話題なのですが、私は料理はできないので、何かすごいことが起きているんだろうけど、それが実感できないのが残念でした。


2010年6月21日

島田裕巳の葬式は、要らないを読みました。
現在の葬式の形がどのような歴史で形成されたのか、日本人の祖霊信仰はどのようなものなのか、なぜ戒名の価格が高いのか、というような葬式に関連することがらを解説した本でした。 また、寺の経済的な基盤はどのようになっているのか、檀家とは何なのか、というようなことも解説されていました。
私は田舎に生まれて、転勤で首都圏にいたこともありますが、最終的に田舎に戻って生活しているので、無意識のうちに檀家であるということを続けて、墓を守っていこうとしています。 しかし、田舎から離れて都会に住んでいる人たちにはすでにそのようなベースがなくなってしまっているので、形骸化した従来の葬式の形が見捨てられようとしている、と解説されています。
私には自明に感じられる、人間というものは、ずっと昔の祖先から連綿と続いてきたもので、父母から私、そして子供たちへと、未来に向かって続いていくものだ、という考え方も、祖霊信仰がベースになっているかもしれないな、と思いました。
祖霊信仰をしない人たちは、人生というものは生まれたときに始まって死んだときに終わる数十年間だけのものだ、と考えるのでしょうか。 そうだとすると、人生に対する考え方も行動の規範も変わってくるような気がしました。


2010年6月18日

畠中恵のこいしりを読みました。
お江戸の町名主の跡取り息子なのに、ある時からお気楽な遊び人に変わってしまった麻之助が主人公のまんまことの続編でした。
麻之助と、女とのつきあいが最優先の清十郎、そして堅物の吉五郎のトリオが神田の街で活躍します。 町名主に持ち込まれるいろいろなもめ事を鮮やかに解決していきます。
麻之助と清十郎の幼なじみで清十郎の義理の母親のお由有や、ひょんなことから麻之助と夫婦になってしまったお寿ずがからんで、物語が進んでいきます。 お由有とお寿ずの間の危ういバランスで活躍する麻之助の物語に引き込まれてしまいました。


2010年6月15日

誉田哲也の武士道シックスティーンを読みました。
剣道をテーマにした女子高校生二人の青春物語でした。 香織は小さい頃から剣道を学んでいる剣道のエリートで、宮本武蔵に心酔していて、勝敗にこだわる激しい攻めの剣道をしています。 早苗は日本舞踊から剣道に転向した、剣道をしているだけで楽しいという、勝敗にこだわらないのんびりした性格です。
この性格の正反対な二人が交互に物語を語っていきます。 それぞれの性格のままの文体のコントラストも楽しめました。
男性の作家が描く女子高生たちの物語なので、登場人物たちが爽やかに凛々しく描かれています。 また、二人とそれぞれの父親とのエピソードもほほえましく描かれています。
女性の作家だと、どうしてもどろどろした人間関係が出てくるので、こうは行かないよなあ、と思いながら物語を楽しみました。


2010年6月10日

瀬尾まいこの卵の緒を読みました。
家族をテーマとした二つの物語でした。 「卵の緒」は自分が捨て子だと思っている小学生の男の子が語り手で、血のつながっていない母親とそのボーイフレンドとで家族を作っていくという物語でした。 「7's blood」は父親の浮気相手の子供と一緒に過ごすことになってしまった中学生の女の子が語り手で、その腹違いの弟と絆を作っていくという物語でした。
どちらの物語も腹の据わっている母親が魅力的に描かれていて、主人公たちはその母親に愛情を注がれているのでした。
瀬尾まいこの物語は強い主張はありませんが、おだやかにていねいに家族のあり方の理想が描かれています。 登場人物たちの心持ちが暖かく感じられるのがいいと思いました。


2010年6月7日

恩田陸の朝日のようにさわやかにを読みました。
ミステリー、ホラー、童話、SF、エッセイ、いろいろなジャンルの短編集でした。 どの物語もそれぞれひねりがあって面白く読めました。 読んだあとに余韻が残る物語が多く、恩田陸は芸達者だなあ、と感心してしまいます。
印象に残った物語は「赤い鞠」でした。 少女は海辺の高台にある母の実家で祖母に会ったことがある。 そう言うと母親は笑って答える。「あなたのお祖母さんはあなたが生まれる前に亡くなっているのよ」 しかし、彼女は一度、その実家から降りた草むらの中にある、古い日本建築の中で、鞠をついていた少女と会ったことがある。 なぜか、その少女が祖母であると一目でわかったのだった。


2010年6月2日

江國香織の落下する夕方を読みました。
8年間一緒に住んでいた健吾から急に別れを言い出された梨果は、健吾の恋人で気まぐれな華子と同居することになってしまいます。 健吾との別れを消化できないまま、梨果は華子と生活をしていくのですが...
江國香織の物語によく登場する、やさしい男性と現実感がちょっと希薄な女性の物語でした。 物語としてはきれいに描かれていますが、本当にこういう登場人物が生活していたら、はたから見てちょっと変な人たちなんじゃないかなあ、と思ってしまいました。


2010年5月27日

湊かなえの告白を読みました。
本屋大賞を受賞したミステリーで、自分の教え子により子供を殺された女性教師がその教え子の少年に復讐するという物語でした。 6つの章それぞれがこの物語に登場する人物のモノローグで語られていて、その告白が必ずしも真実とは限らないというところが物語のキモなのでした。
最初の章を読み始めて感じたのは直截的すぎて下品だなあ、ということでした。 普通、ミステリーというのは最初は静かに伏線をまじえながら物語が始まるものですが、この物語は最初から核心について語られてしまいます。 最初に殺人とそれに対する復讐が語られてしまうのです。
そして、そこから登場人物の告白により事件の全貌が語られていくのでした。 今話題のモンスターペアレントや少年犯罪がテーマとして取り上げられていますが、登場人物の描かれ方がパターン化しているのが気になりました。
エンディングもまた衝撃的で、ストーリーとしては面白く読みましたが、やはり描かれている人物たちに深みがなく、うすっぺらに思えたのが残念でした。


2010年5月24日

広瀬正のタイムマシンの作り方を読み直しました。
タイムマシンをテーマとした短編やショートショートが掲載された広瀬正の初期作品集でした。 主にタイムマシンで過去を改変したら現在はどうなるのだろうか、というパラドックスをテーマとした短編が多かったようです。
これで、広瀬正小説全集の文庫6冊を再度読み直したわけですが、やはり一番面白かったのはマイナス・ゼロでしょうか。
最初にこの物語を読んだのは多分20年くらい前でしたが、この物語の中に登場する、ある女性の印象が強く記憶に残っていました。 その女性はタイムマシンで過去に戻って過去の時代で出産するのですが、その娘は実はその女性本人で、成長して現在のタイムマシンに乗って過去に戻ることになるのでした。 要するに無限ループなのですが、DNAは同じはずなので、などといろいろ考えだすと眠れなくなります。


2010年5月20日

グレイス・ペイリーの 人生のちょっとした煩いを途中まで読みました。
村上春樹訳なので買ってみたのですが、文章が読み解けず、物語を追うことができませんでした。 実は数ヶ月前に途中まで読んでみたのでしたが、物語が頭に入ってこなかったので、期間をおいて再読してみたのですが、やはりダメでした。
逃げてゆく愛もそうでしたが、どうも英米の純文学系(?)の小説とはkonnokは相性が悪いようです。 SFやミステリーは特に問題なく読めるんですけどね。なぜでしょうね。


2010年5月19日

宮部みゆきの楽園を読みました。
模倣犯に登場した前畑滋子が主人公の物語でした。 模倣犯は人間の残酷性が描かれた怖い気持ちの悪い物語で、読み終えた後も夢にうなされるような物語でした。 滋子は連続殺人の犯罪者ピースと渡り合い、からくも勝つことができたのですが、その後9年間ルポライターの仕事を続けることができなくなってしまったのでした。
そして、その滋子にたまたま子供を事故で亡くしてしまった母親が訪ねてきます。 その子供が書いていた不思議な絵の謎解きをしようとするところから、滋子はいろいろな事件に関わっていくことになるのでした。
この物語は亡くなってしまった人の弔いが描かれていて、登場人物も暖かい人たちが多く、模倣犯で受けた傷が少しずつ癒されていく経過が描かれています。 模倣犯の続編ということで敬遠している人がいるなら、読んでみることをおすすめします。


2010年5月10日

あさのあつこのガールズ・ブルーを読みました。
落ちこぼれ高校に通っている女の子理穂と、体が弱いのに同情されるのが嫌いな美咲、天才野球少年の兄といつも比較される如月、というような友人たちの物語でした。 彼らの高校生活が淡々と描かれていくのですが、主人公たちの性格が魅力的に描かれていて面白い物語になっています。
17歳のときしか味わえない青春のひとこまが透明なタッチで素直に語られていて、楽しめました。


2010年5月5日

岩崎夏海のもし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだらを読みました。
経営学の古典であるドラッカーの『マネジメント』を題材にした小説でした。 『マネジメント』は経営学の本なので、マネージャーとはどうあるべきである、ということが書いてあるわけですが、それを高校野球の女子マネージャーがマネージャーの仕事の参考にするために読み始めたという設定でした。
監督や野球部員それぞれの個人的な能力は高いにもかかわらず、チームとしてそれが活かされていない、という状況でマネジメントとしてはどのような対策をとるべきか、ということが書かれています。
物語としてはそれなりに面白く読みましたが、解説として書かれている『マネジメント』の引用部分にいろいろ考えさせられてしまいました。
一番気になったのが「マネージャーは真摯でなければならない」というくだりでした。 マネージャーの個人能力は低くてもかまわない、でも真摯でなければチームメンバはついてこない、と書かれていたのでした。 うーむ。真摯とはどういうことなのかなあ、と考えてしまいました。


2010年4月30日

林成之の脳に悪い7つの習慣を読みました。
脳のパフォーマンスを上げるための方法が解説された本でした。 脳のパフォーマンスを下げてしまう行動・習慣が解説されており、それを避ければ脳が活性化する、と主張されていました。
悪い習慣とは... 「興味がない」と物事を避ける。 「嫌だ」「疲れた」とグチを言う。 言われたことをコツコツやる。 常に効率を考えている。 やりたくないのに、我慢して勉強する。 スポーツや絵画の趣味がない。 めったに人をほめない。
脳が喜ぶのは「世の中に貢献しながら、安定して生きる」という状態とのこと。 脳が喜んで活動できるようにすることにより、脳のパフォーマンスがあがる、という主張でした。 納得できる主張だったので、この本に書いてあるように行動を変えてみようと思いました。


2010年4月29日

ベルンハルト・シュリンクの逃げてゆく愛を読みました。
ドイツの作家シュリンクの短編集でした。 この人の朗読者は結構面白く読んだので、この本も読んでみました。
ドイツに住んでいる人たちが主人公の、愛の始まりと終わりがテーマの短編集でした。 私がよく読んでいる日本人の作家の人物の描写方法とは違う物語手法なので、物語に感情移入しにくいと感じました。 また、ドイツ人とユダヤ人のかかわり、西ドイツ人と東ドイツ人のかかわりというような、日本人からみるとよくわからないテーマも絡んでいます。
感想としては、何が言いたいのかよくわからない短編集でした。


2010年4月23日

村上春樹の1Q84 book3を読みました。
1Q84の完結編でした。 book3では、book1、book2では説明されなかったいくつかの謎が明らかになり、青豆と天吾の物語が完結します。
青豆が首都高の非常階段を降りたときに入り込んでしまった並行世界には月が2つあり、いろいろ不思議なことが起きているのでした。 「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」では主人公は現実の世界に戻れなかったのでしたが、1Q84では主人公たちは危機一髪で現実の世界に戻ることができたのでした。
謎の解明が不十分でちょっと物足りないような気もしましたが、物語はおもしろく読んだので、まあ良しとしましょう。


2010年4月10日

瀬尾まいこの強運の持ち主を読みました。
会社勤めが性格に合わなくて、占い師をやっている女性主人公が出会う不思議な客たちの物語でした。 それぞれのエピソードがちょっとした謎解きになっていて、それはそれで面白くよみました。 軽い読み物としてはさらっと読めるのですが、こころに訴えかけてくるものがちょっと弱いかなあ、と感じました。


2010年4月10日

伊坂幸太郎のゴールデンスランバーを読みました。 ケネディの暗殺を題材に、仙台の街で首相暗殺が起こってしまうという物語でした。
主人公は首相暗殺の犯人に仕立て上げられてしまい、警察から追われて逃げまどうのでした。 この物語ではセキュリティポッドと呼ばれる監視装置が街の中に置かれていて市民の活動は常に監視されているという設定になっています。 主人公はその監視網の中を友人の助けを借りながら逃げていきます。 そして、何とかマスコミに自分の無実を訴えようとするのでしたが...
手に汗握る物語で、主人公たちの過去のエピソードも面白く、一気に読んでしまいました。
昔からの友人から映画を見たとのメールをもらっていました。 映画も面白かった、ビートルズのGolden Slumbersが効果的に使われていたとのこと。 物語に登場するビートルズのABBEY ROADを久しぶりに引っ張り出してきて聞いてみたら、昔の友人を思い出して懐かしく感じました。 この物語の主人公たちだけでなく、私たちももうあの頃には戻れないのでした。


2010年4月1日

石田衣良の目覚めよと彼の呼ぶ声がするを読みました。
石田衣良のエッセイ集でした。 雑誌や新聞のコラムに書いたもののようで、短めの文章ですが、エスプリがきいていて読んでいてなるほどと思わされます。
若い女性たちに向けた応援歌、自分が育った街や住んでいる街に対する愛着、おすすめの本などの多岐にわたる意見が書かれています。
面白いと思ったのは、大人の男たちよ遊ぼうよ、という意見でした。 大人の男たちが遊ばないと文化はダメになる、というのは賛成です。
遊ばない大人たちが集まれば、訳の分からない規制とかを考え出すんだろうなあとか、思ってしまったのでした。


2010年3月29日

畠中恵のまんまことを読みました。
江戸時代の古名主の長男が主人公の6つの短編で構成されている殺人のない時代ミステリーでした。 江戸時代が舞台ですが、しゃばけとはまた違った面白さがあります。
主人公の麻之助は16歳までは評判の良い若者だったのに、何かがきっかけでお気楽者になってしまいました。 とは言え、町人が持ち込む相談事を解決する手腕はたいしたものなのでした。 そして、麻之助が密かに心に秘めている想いも明かされていくのでした。
続編も出ているようなので、文庫になるのが待ち遠しいですね。


2010年3月23日

海堂尊のイノセント・ゲリラの祝祭を読みました。
架空の市、桜宮市を舞台としたシリーズの小説でした。 医療事故調査をテーマとして、司法と医療の棲み分けについて議論がたたかわされます。 今作では、殺人事件は起きませんが、いろいろな伏線が仕掛けられていて、ほう、そういうふうに話が進んでいくのね、と面白く読みました。 登場人物たちの腹の探り合いも描かれていて楽しめます。
ロジカルモンスター白鳥の他にイノセントゲリラ彦根が登場して官僚の既得権益に切り込んでいきます。 海堂尊が描く登場人物たちも一癖も二癖もある魅力的な人物たちとして描かれていて、つい引き込まれてしまいます。
テーマが重いので、この小説は小説として、日本の現状はどうなんだろう、と考えてしまいます。


2010年3月17日

佐藤多佳子のごきげんな裏階段を読みました。
裏階段で起きる不思議な物語が描かれた童話でした。 子供たちと、タマネギ頭の猫、笛を演奏する蜘蛛、煙の魔神などの変な怪物たちとの交流が描かれます。 そして、少しだけ子供たちも成長していくのでした。
佐藤多佳子は童話から作家デビューしたそうで、確かに面白く読める童話でした。


2010年3月15日

中川淳一郎のウェブを炎上させるイタい人たちを読みました。
ウェブはバカと暇人のおもちゃだ、と言う主張のインターネット解説でした。
ウェブに匿名で書き込みを行っているひとたちの常識外れの言動について解説されていて、私も当事者になったことはありませんが、紹介されている事例はときどき見かける風景だなあ、と納得したのでした。
ところで、私もホームページを開いて、blogを書いているわけですが、このような行動に意味があるのかなあ、と胸に手を当てて考えてしまいました。 面識のある人たちに対して日頃考えていることを日記として公開していることは意味があると思いますが、それをインターネットに発信することに意味があるのでしょうか。
せっかく数年にわたって続けてきたし、辞書のサイトから参照してもらっていたりもするので、すぐに止めることはないと思いますが、よく考えてみたいと思いました。


2010年3月11日

筒井康隆のアホの壁を読みました。
筒井康隆流のアホ論でした。 堂々と養老孟司の「バカの壁」のパロディだと書かれていましたが、それなりに面白く読みました。
なぜ人はアホなことを言うのか、というテーマではアホなことを言ってしまうシチュエーションが面白おかしく書かれていました。 また、なぜ人はアホな計画を立てるのか、というテーマではいろいろな要因で失敗してしまったプロジェクトが紹介されていました。 なぜ人はアホなことをするのか、というテーマではフロイトが引用されていてちょっと強引な行動心理学が解説されていました。
筒井康隆らしいテイストで、単なるパロディよりは面白く読めたと思います。


2010年3月8日

万城目学の鴨川ホルモーを読みました。
京都大学の一回生の主人公は京大青竜会という怪しいサークルに誘われてしまい、千年間続いている不可思議な戦いに巻き込まれてしまうのでした。
このホルモーという戦いの描写が面白い。 現実にはありえないものなのに、戦いに参加しているメンバや使役しているオニたちの動きも含めてリアルに描かれています。 陰陽五行説の記述も矛盾なく描かれていて、呪術的な背景についてもよく説明されています。
主人公の恋愛模様も面白く描かれていて、前半は森見登美彦の小説を読んでいるような錯覚に襲われましたが、それはそれでしっかり物語の伏線になっているのでした。 この人の小説を読んだのは2作目ですが、どちらも満足できました。


2010年3月2日

星新一のエヌ氏の遊園地を読みなおしました。
20代には星新一が気に入った時期があって、ショートショート集は残らず読んだのでしたが、最近は読み直すこともありませんでした。 古本屋で星新一を見かけて、懐かしいなあ、と思って読み直すことにしました。 いくつか覚えているエピソードもあって、覚えているものだと思いました。
まあ、また全部のショートショートを読み直そうという気持ちはないのですが、たまに読み直すのもいいものです。


2010年2月28日

瀬尾まいこの天国はまだ遠くを読みました。
主人公の23歳の女性は仕事や人間関係に疲れて、自殺をしようとひなびた田舎町の奥の民宿に宿泊します。 しかし、睡眠薬の自殺は失敗に終わり、その民宿に泊まっているうちに、また自分の居場所に戻って仕事や生活をしていこうとする気力が戻ってくるのでした。
民宿を一人でやっている30歳の男性が、田舎暮らしでの生命力にあふれていて魅力的に描かれているのですが、安易にその男性との恋愛話になってしまわないところが瀬尾まいこの物語のいいところなんだと思いました。
都会に生きている普通の女性の気持ちが偏見やわがままさ、甘えなども含めて等身大で描かれているのが好感が持てます。 完全に復活したわけではないけれど、主人公がまた生活をやり直してみようと思っていく経過が暖かく描かれています。


2010年2月25日

細川貂々のその後のツレがうつになりましてを読みました。
ツレがうつになりましての後日譚でした。 最近うつ病という病気をよく聞きますが、その実態がよくわからないと思っていました。 この本では、うつ病が実体験に基づいたコミック形式のエッセイで分かりやすく解説されています。
前作を読んだときもそう思ったのですが、このツレさんは細川貂々の連れ合いでラッキーだったのではないかと思います。 とは言いながら、本人は病気のつらさに耐えているわけなんだけど。
今の日本人は昔の人たちに比べて精神的なタフさが低くなっているような気がするので、仕事をする上でもこのような知識をちゃんと持っておきたいところです。


2010年2月22日

岩井志摩子の恋愛詐欺師を読みました。
女性たちの暗い側面を描いた短編集でした。 どろどろとした官能的な表現もあり、幻想的なホラーテイストのものもあり、ストーリーのどんでん返しもあって面白く読めました。
表題作の恋愛詐欺師は、「あたしバカだからわかんな〜い」を口癖に男たちを騙し続けるグラビアアイドルの物語でした。 確かにどこかにいそうな女性の物語で、騙すほうも騙される男も仕方のない人たちとして描かれていました。 虚無的なにおいのするところが、岩井志摩子らしいところです。


2010年2月17日

倉橋由美子の酔郷譚を読みました。
倉橋由美子が没するまで執筆し続けた連作の短編集でした。
九鬼さんと真紀さんのカクテルによる酔いは慧君をいろいろな場所にいざなってくれるのでした。 あるときは天国のような場所に、あるときは霧深い山荘に。 そして、倉橋由美子らしい、幻想的で妖艶な物語が語られていきます。
こんな魅力的な文体は他の作家では読めないと思うと、この珠玉のような物語がいとおしく感じられます。


2010年2月13日

広瀬正のT型フォード殺人事件を読みなおしました。
以前読んだ広瀬正の文庫を再度読み直しています。 広瀬正というとタイムマシンSFのイメージが強いですが、こんなミステリも書いていたんだなあ、という感想です。
嵐の山荘で、昔起きた殺人事件の謎解きをしていく主人公たち。 しかし、その山荘で殺人事件が起きてしまいます。 どんでん返しが二重に仕組まれていて楽しめました。


2010年2月5日

石田衣良の親指の恋人を読みました。
携帯電話の出会い系サイトで知り合った男女が主人公の現代版のロミオとジュリエットの物語でした。
ところが、石田衣良の作品とは思えない、登場人物の息づかいがまったく感じられない物語でした。 主人公たちがセリフを棒読みしている演劇のように感じられました。
石田衣良でもこんな駄作を書くことがあるんだなあ、と思ってしまいました。


2010年2月3日

夢枕獏の陰陽師 夜光杯の巻を読みました。
おなじみ、陰陽師シリーズの短編集でした。 シリーズも10巻をこえて、初期の頃のおどろおどろした雰囲気はなくなって、ちょっとコミカルな感じのする物語も多くなってきたような気がします。
まあ、物語一つ一つはそれなりに楽しめたのですが、中には題名を読んだだけで、展開が読めてしまうものもあり、ちょっとマンネリ気味かなあと感じました。


2010年1月29日

瀬尾まいこの幸福な食卓を読みました。
家族とは何か、と考えさせられる小説でした。 主人公の佐和子は父と母と兄との4人で暮らしていたのですが、父は父親の役割をやめる、と宣言してしまうし、母は5年前の事件のショックで一緒に家に住めなくなってしまいます。 それでも、家族は仲良く暮らしているし、お互いを思いやる気持ちを持っています。
佐和子にとってひどく悲しい事件が起きてしまいますが、それを乗り越えようとするときに、佐和子の周りには家族だけでなく暖かい人たちがいる、ということに気づかされるのでした。
淡々としたストーリーの中に、暖かい光が息づいている、そんな物語でした。


2010年1月25日

加納朋子のモノレールねこを読みました。
家族や親しい人を失ってしまった人たちの再生の物語を集めた短編集でした。
私は表題のモノレールねこに登場するタカキが気に入ってしまいました。 小学生のサトルは、野良猫に託して見知らぬ小学生と手紙の交換を始めるのですが、その野良猫が車に轢かれてしまい、突然手紙の交換が出来なくなってしまいます。 そして十数年後、二人は再会するのですが... 主人公のサトルと一緒に胸が熱くなりました。
他は悲しい物語が多かったのですが、加納朋子らしく暖かい結末になっているので救われます。
バルタン最後の日は、ザリガニの目線で描かれたある家族の物語でした。 伏線がきいていて、お母さんの思いが伝わってくる暖かな物語でした。
加納朋子というと連作の短編集が秀逸ですが、こういう短編集もありだな、と思いました。


2010年1月21日

森見登美彦の太陽の塔を読みました。
森見登美彦のデビュー作で、ファンタジーノベル大賞を取った小説だそうです。 しかし、konnokとしては、この小説は楽しめませんでした。
四畳半神話大系のようにSF的なトリックがあるわけではないし、夜は短し歩けよ乙女のようにかわいい女の子が登場するわけでもない。 延々と自意識過剰な男性の主人公の独白が続いていきます。
文章がちょっと難解なのも、読み続ける気力をそいでしまいます。 この人の書くテーマも毎回同じなので、ちょっと食傷気味と言うこともありますが。


2010年1月5日

伊坂幸太郎のフィッシュストーリーを読みました。
伊坂幸太郎のデビュー時から最近までの短編を集めたものでした。 連作ではないので、それぞれの物語に関連はありませんが、それぞれに面白い物語でした。
表題のフィッシュストーリーは、売れないバンドが作った曲が数十年後に世界の混乱を救うというお話でした。 まあ、設定にはちょっと無理があるかなあ、と思いますが、ほら話(fish story)としては面白く読めました。 心が温かくなるお話でした。


2010年1月5日

畠中恵のちんぷんかんを読みました。
すじがね入りの虚弱体質、長崎屋の若だんなが主人公の時代劇ファンタジーの短編集でした。 前作までは、どちらかというと若だんなと妖(あやかし)たちが中心の物語でしたが、今作では若だんなの両親のなれそめの話や、庶子の兄の縁談の話、桜の花の精が登場する人の命のはかなさを描いた話など物語に広がりが出てきました。
表題作のちんぷんかんは、若だんなが懇意にしている広徳寺が舞台の物語でした。 新入りの小僧がなぜか妖退治で有名な高僧に弟子にされてしまいます。 13年の修行のあと、初めて相談の客の相手をするのですが、その客というのが化け狸で本の中に封じ込まれてしまうのでした。
読み終えてすぐ、シリーズの続編が読みたくなります。


2010年1月3日

桐野夏生の玉蘭を読みました。
東京での競争に敗れ、失恋の傷心をかかえて上海の大学に留学している若い女性の物語と、その女性の大叔父で戦前に上海で船乗りをしていた男性の物語が、交互に語られていく小説でした。 玉蘭(ぎょくらん)とは彼女のところに大叔父の幽霊が現れたときに、置いてあった花の名前です。
戦前に上海で船乗りをしていたという男性のモデルは桐野夏生の祖母の弟だそうで、そう言う意味でも面白く読みました。
上海という異国で、時代も状況も違う二人が遭遇する物語がなぜか似通ってくるのが面白いと思いました。 とは言え、桐野夏生の小説なので、女性も環境の変化に伴いしがらみを捨てて強くなっていくように描かれていました。


2010年1月1日

今年も、面白そうな本を探して読んでいきたいと思います。 そしてなるべく本を選ぶときに参考になるようなコメントを記録していきたいと思います。 どうぞよろしくお願いいたします。




2009年に読んだ本の感想